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現代詩の小箱 北野丘ワールド

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字扶桑(あざふそう)

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逆光の岬に
千の夏
百の浜ヒルガオ咲くごとに
岩崩れおちる
字扶桑(*1)

日没を浸して
岩礁折り重ねる底のテラス
字扶桑は
波がきたら
〈玉シヒ〉
波にのまれる

なにかが遠くにあると
幻のように幻を
鑿と槌で妣たちは信じ
〈シライワ様ニ コウコウト〉
千の夏を彫りつけ
百年ひと夏
〈浜ヒルガオノ世〉
岩にのまれる

男たちは
漁にでたまま帰らない
いつもここでは帰らない
目を開いたまま眠って
魚みたいに
女の気が違っても
しんとした零の凪だから
月あかりは
岬に照ら照らと
ひとりの男をうちあげる
それが

ただ灯りへと歩いて
誰それの
女の土間でたおれたなら
その男の家になり
いつも
同じ名を与え

 やわらかい、夢の底、         
 ふるいふるい、岩霊ノシラル(*2)、     

見えない
女の片手が
あたたかい濡れた顔をつたって
耳に吹き込む
字扶桑



*1 「字扶桑」は 不老不死の仙人が住むというユートピア伝説にでてくる国。中国では日本と考えられたことがある。ここでは字がつくような寒村で隠れ里という架空の村を設定している。
*2 「シラル」はアイヌ語で平らな岩のこと
#字扶桑

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