反魂
Nov
27
ごろすけほうと ふくろうが鳴けば
浜のはずれの家から
精悍な男の影が岬へと歩いていく
三年目の秋 滸呂裳(コロモ)は死んだ
おれは 何をするのだか考えちゃいなかった
流れ着いて 奇跡というのか
たいした奇跡だった
あいつは目が悪かった
それで 何でもおれの思いが動けば
ぼんやりとしたものでも察して
思いどおりに動いた
小さな間取り 物の場所は寸分の狂いなく決まって
おれは その位置をずらさないことだけを 守らされた
それで あいつを どう乱そうと
あいつは喜んだのだ
おれは この秋 何をするんだか
考えちゃいなかった
朝 村の老婆たちが
こんなにいたのかと思うほど湧いてきて
白絹のコモに女を収め 蟻のように運んでいった
何がどうとも 互いにいわなかった
ただ 和紙一丁と筆を おれに残していった
これに扶桑の歴史を書き
女をよみがえらせろといった
おれは女を愛しかけていた気がする
だが 生まれてこのかた
死人の肌みたような真っ白い和紙に
これほど憎しみが湧いたことはなかった