イヌイという町で
「やあ海霧がでてきたな」
「おお そろそろ帰るとするか」
夕日が沈めば 船頭と網元が挨拶をした
兕(けもの)森で迷っても
「やあ海霧よ
帰るとするよ」
乾いた落ち葉が ぬれるところで耳にする
「きつねのぶどうはあったかい」
「さるのこしかけで寝てたのかい」
風に零して 男たちは笑って去った
「もう森へかえしましょう」
「戻ってはこないものだし」
女たちは 崖の湧き水で胸の汗をふく
ポロホウが鳴いて
目覚めた誰かがポロクゥと鳴いた
あとはりーりりり
艸たちが奏でて
「朝 谷の凹みをでてきたら
わしは お前とあった」
石の 浜ヒルガヲに
カビた振る舞い餅をうやうやと 婆は捧げる
夕日 千の一夕に
ウミウシは青紫の血を流して
いつまでも二本の角で踊っていた
「こころに響く
ことばが顕われるのは わたしそのものだ」
舟虫たちは ここから次の影までと
あるいは 長いカイメツを経て
帰還した主を ふたたび供えるためにか
いっせいに海霧の館へと 走っていく
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