烈しい防御の紀元から
薄いセルの瞳
ひとつ ほどけ
くるぶしの夢から
身を這い出しわたしの五月の寝床で
おまえを柩とするという
乱暴な五月の指先で
わたしの舌が混紡にほどけ
つややかな貝の
渦巻きをなぞると
わたしの脚のあいだに
貝は眠り
世界の未明を
るるる
僅か回した
あれは明滅する烏
ゆらふら 推進する硝子質
みるみる尾につけて
渚にのまれる
二畳紀二億四千万年の灰の虹
暁闇に貝は
黴に濡れ
ひと茎の夢を背負って
光裂の渚を這った
海で大量の喪があったのだと
貝は白いカケと黒い脂をすこし吐いた
それは人間のものですかと
わたしは尋ねた
黙って貝は
草むらを吸った
ひとの 意識が
地軸を 狂わすとき
傾く 葬列の海 一夜
存在しながら
存在しないも 同然
の霊が 大量に うまれる
名は名 みずから 喪を
執らねば ならない
海域のやわらかさ
あの人かもしれない
あの人を導く おなじ指で
押し返す 汀をにぎる
薄いセルの瞳
ひとつ 回し
貝とうまれて
人に眠る
人にうまれて
貝となる
地上の ことばが
貝に うまれ……
あたたかい
潮みづながし
南洋の彫像の歯をみせて
貝は
倒れた
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