1枚ガラスの窓では割れなければガラスの寿命はあまり気にすることはない。中世に作られたヨーロッパの大聖堂のステンドグラスなどは数百年経った今でも窓ガラスとしての役割を果たしている。それに対しペアガラスの寿命はずっと短い。
窓の話その5『ペアガラスの構造』で述べたように、ペアガラスは2枚のガラスと一般的には金属製のスペーサーによって構成され、ガラスとスペーサーの接合にはメーカーによりポリイソブチレン、ポリサルファイド、ポリブチレン、ポリウレタン、シリコンなどの合成接着剤が使用される。ペアガラス内部にはシリカゲルやモレキュラーシーブなどの乾燥剤による乾燥した空気が封入されているが、ガラスとスペーサーの接合が不十分だと外部から水蒸気が侵入し、あるいは接着剤によっては水蒸気の透過性が十分低くないために、時間の経過と共にペアガラス内部に水蒸気が侵入することもある。更に接着剤によっては時間の経過による紫外線などによる劣化もペアガラス内部への水蒸気の侵入を許す。一旦このような現象が起こるとペアガラス内部の水蒸気は気温の変化などにより凝縮して結露がおこり、ペアガラス内部が曇ってガラスの透明性が低下する。この現象をペアガラスの内部結露と呼ぶが、写真は内部結露を起こしたペアガラスで、このようなペアガラスは補修することは出来ないのでそっくり交換しなければならない。
ペアガラスには内部結露しやすいものとしにくいものがあるので、ペアガラスの窓を選ぶ時には次のような点に注意する必要がある。
1)スペーサーがスチール製の場合、ガラスとスチールの熱膨張係数の差がガラスとステンレススチールの差よりも大きいので接着剤に大きな応力がかかり、その結果気密性が低下しやすくなる。
2)スペーサーのコーナー部分が直角につき合わせられていると、コーナーが湾曲した形状のスペーサーよりも熱膨張による集中応力が大きくなり、その結果気密性が低下しやすくなる。
3)接着剤に関するある試験データによれば、ペアガラスで重要な水蒸気の透過性についてはポリイソブチレンが最も低く、ポリサルファイドはその約10倍、ポリシリコンは約100倍である。
アメリカのCardinal社が行った紫外線による劣化などを加味した接着剤の気密性能の加速試験によれば、もっとも長期間にわたり結露しないペアガラスはポリイソブチレンを1次シール、シリコンを2次シールとしたダブルシールを採用したコーナーが湾曲したものであり、同じダブルシールの接着剤でもコーナーが直角の突合せスペーサーでは寿命が前者の20%、ポリイソブチレン・ポリウレタンダブルシールやポリイソブチレン・ポリサルファイドダブルシールでは10%しかない。同じ試験ではポリサルファイドシール、ホットブチルシール、ポリイソブチレンシングルシールなどはそれよりも更に寿命が短い。
アメリカ複層ガラス製造者協会は協会員であるメーカーが製造した約50,000本にわたるペアガラスの内部結露をアメリカの14都市で15年間にわたり追跡調査したデータ(SIGMAデータ)を発表しているが、このデータによれば15年経過したペアガラスの9.5%が内部結露を起こしており、このデータより25年前後で50%以上のペアガラスが内部結露すると予想されている。すなわち一般的なペアガラスの寿命は15-30年程度と思われる。
Cardinal社は、前述の加速試験でもっとも耐久性の高かったポリイソブチレンを1次シール、機械的強度に優れたシリコンを2次シールとしたダブルシール、更にコーナーが湾曲したステンレススチールスペーサーを採用したペアガラスを製作しているが、アメリカ複層ガラス製造者協会のテストでは15年後の内部結露の発生率が0.1%であり、このテストデータを延長すると100年後でも僅かに1%前後の発生率を示している。このような高耐久性ペアガラスはアメリカの一部の木製窓メーカーに採用されている。
余談だが内部結露したペアガラスを交換する際には交換用ペアガラスのメーカーに注意を払う必要がある。十分な技術と知識を持っていないメーカーの交換用ペアガラスの寿命がわずか数年しかないことも珍しくない。
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