窓の話17『ガラスの破損と熱割れ』
Oct
13
ガラスは圧縮応力には比較的強いが引張り応力には弱く、例えば野球のボールがガラスに当った場合、ボールの当ったガラスの外側表面には圧縮応力がかかるので耐えられても、裏側表面にはたわみによる引張り応力がかかり、この応力が裏側表面にある目には見えない微細な傷に集中してガラスが裏側表面から破損する。この微細な傷は製造過程で溶融したガラスが他の物体と接触して生じるが、もしもガラス表面の微細な傷が皆無なら、ガラスの引張り強度は鉄よりも高いと言われている。
ペアガラスの窓では、外側のガラスにボールなどが当って破損する時、外側のガラスが飛来した物体の運動エネルギーを吸収するため、内側のガラスは割れないことが少なくない。この場合断熱性能などは損なわれるため、ガラスパネルを交換しなければならないが、交換までの間雨風をしのぐことは出来る。
割れやすいガラスを割れにくくした強化ガラスがある。普通の板ガラスをその溶融点に近い約700℃に加熱した後急冷することにより、ガラスのすべての表面にあらかじめ圧縮応力を付加し、何らかの理由で発生する引張り応力を緩和することが出来る。このような強化ガラスは同じ厚さの通常のガラスに比べ4倍程度の強度がある。また強化ガラスは割れる際に破片が粒状となり、通常のガラスのような鋭利な端部が発生しないため危険性がない。
強化された窓ガラスでもバットなどで叩けば割れるが、防犯用には2枚のガラスの間にプラスチックのシートをはさみ接着した合せガラスが使用される。ガラスの厚みや中間のプラスチックフィルムの厚みにより高い防犯機能を発揮させることが出来る。なおこのような合せガラスは割れても破片が飛散しないため、自動車や鉄道などのウィンドシールドにも広く使用されている。
なお、網入りガラスは防犯機能があるように見えるが、火災などでガラスが高温にさらされた時、ガラスが割れて脱落することを防ぐために金属製の網が入っているのであり、防犯性能は網のないガラスと大差ない。余談だが網入りガラスの網はガラス切断面では露出しているため、これが水分に触れると錆をおこし、それが原因で割れることがある。これを網入りガラスの錆割れと言う。
建物が破壊するような地震に対しては窓ガラスだけ耐えても意味がないが、窓ガラスの耐震性については板ガラス協会による昭和40年の駿河湾沖地震や昭和53年の宮城県沖地震に関する窓ガラス破損データがある。これによればスチールサッシュのパテ止め固定窓がもっとも危険だと言う。ガラスをサッシュに固定しているために建物の震動が直接伝わりやすいためで、アルミサッシュに柔軟性のあるシリコンシーラントを使用すれば、窓ガラスの耐震性は格段に向上する。
ガラスの中心部温度が周辺部に比較して高いと、中心部の膨張が周辺部に応力となって負荷され、この応力がその部分の強度を越えるとひび割れを生じるが、このようなガラスの破損は熱割れと呼ばれる。熱割れが発生しやすい条件はガラス中心部と周辺部の温度差が大きくなる天候であり、寒い冬の日の夜、寒い冬の日のとても天気の良い日中、とても日差しの強い夏の日中などがこのような条件となる。また室内側にカーテン、ブラインドなどがガラスの近くにあると、中心部と周辺部の温度差をより大きくする傾向があるため、熱割れを起しやすくなる。熱割れを起したガラスでは破壊線(ひび)がガラスの端部では直角になるのが特徴で、破壊線が途中で分岐しない非分岐破壊は熱応力が比較的低い場合であり、破壊線が枝分かれする分岐破壊は熱応力が高い場合に発生する。窓ガラスが割れたとき、破壊線がガラス端部で直角になっていない場合はその原因は熱割れではなく、投石やボールが当るなどの機械的な衝撃によると考えられる。防火用の網入りガラスは切断する際にガラス端部に傷が付くことによって周辺部の強度が低下し、普通のガラスに比較して熱割れを起しやすい。