慰安婦問題
Jan
7
歴史の解釈はそれぞれの国によって異なるものであり、韓国は昨年来急接近している中国とでさえ共通の歴史認識は出来ておらず、そもそも他国に共通の歴史認識を求めること自体が非常識と言える。広島・長崎での原爆投下について、日米間では今でも異なる歴史認識であるのはその一例である。朴大統領が問題としている歴史認識は竹島の領有権、慰安婦、戦前の日本による朝鮮半島統治などに関することがらと思われるが、アメリカに在住していて気になるのは慰安婦問題である。
2007年7月、アメリカ連邦政府下院でマイク・ホンダ下院議員らが提案した慰安婦に関する日本政府に謝罪を求める121号決議案が通過し、2010年10月、ニュージャージー州パリセイズパーク市が、また2012年6月、ニューヨーク州イースト・メドウ市が日本を非難する慰安婦碑を設置し、更に2013年7月にはカリフォルニア州グレンデール市に慰安婦像が設置された。韓国系アメリカ人は韓国系住民の多い市で、その市の姉妹都市である韓国の自治体と協力してアメリカ各地に同様な碑などを設置しようとしているが、そのひとつであるカリフォルニア州ブエナパーク市は2013年8月、この提案を却下した。しかしアップルの本社があるカリフォルニア州キュパティーノでは中国系住民が慰安婦記念碑設置を提案している。この状態を放置すれば、いずれアメリカには日本を非難する慰安婦碑・像が多く設置されることになる。
日韓間の慰安婦問題の発端は1983年に発表された吉田清治著の『私の戦争犯罪』であるが、日本軍が朝鮮で無理やり若い女性を拉致し慰安婦にしたという内容が事実であるなら、日本は非難をまぬがれることは出来ない。しかしこの本の内容が全く事実に基づかない虚偽であることは1992年の文芸春秋4月号に発表された国際基督教大学の西岡力講師(当時)の論文、およびそれに続く拓殖大学秦郁彦教授の現地調査、そしてその際に発見された強制連行の現場とされる済州島の1989年8月14日付済州新聞の許栄善記者による聞き取り調査に基づく署名記事などによって明らかになり、最終的には1995年に吉田本人が虚偽であることを認めている。
1991年5月、朝日新聞は吉田の著書を取り上げ、8月には同社の植村隆韓国特派員がそれを裏付けるような証言に関する記事を掲載するなど、慰安婦問題キャンペーンを繰り広げ、韓国内でもこの問題が大きく取り上げられるようになって、1992年訪韓を目前にした宮沢内閣は事実関係を十分確認することなく謝罪を余儀なくされた。
1992年から1993年にかけて日本政府による慰安婦問題公文書調査が実施されたが、朝鮮半島での公的機関による強制連行は証明されず、吉田証言が虚偽であることが明らかになった。また韓国政府の選任した16人の元慰安婦の聞き取り調査を行ったが、2013年10月に産経新聞が入手したこの日本政府による聞き取り調査報告書では、証言があいまいで他の機会での発言とも食い違い、信憑性は低かった。しかし当時の日韓政治情勢に鑑みて1993年8月、河野洋平官房長官は『河野談話』を発表し、慰安所の設置は日本軍が要請し、直接・間接に関与したこと、慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、官憲等が直接これに加担したこともあったこと、などと慰安婦の存在を認めた。しかし河野官房長官は談話発表後に記者クラブで、談話での官憲等が直接これに加担したこともあったことは朝鮮での事例ではなく、インドネシアにおける日本軍人によるオランダ人女性の監禁・強姦事件(白馬事件)を指していることを説明している。なお、白馬事件に関しては、1948年に事件関係者は連合国側によりB、C級戦犯として死刑を含む有罪判決を受けている。『河野談話』は当時の韓国政府の強い要請により強制性をあいまいに認めたものであるが、2014年1月1日付産経ニュース電子版は、河野談話の原案は在日韓国大使館に提出され、韓国政府の要求によって修正された上で発表されたことが関係者の証言で明らかになった、としている。
宮沢首相の謝罪を受けて韓国では15人の学者による挺身隊研究会が組織され、元慰安婦と称する人たちの聞き取り調査を実施することとなった。韓国では軍需工場などでの労働に従事する挺身隊と慰安婦が混同されているが、韓国挺身隊問題対策協議会という民間団体は元慰安婦に対して日本政府から補償金を得る目的で設立され、元慰安婦の登録を行っていた。同協議会に登録していた元慰安婦110名のうち55名が存命で、挺身隊研究会はそのうちの40数名に対して聞き取り調査を行った。この研究会のメンバーであった後の安秉直ソウル大学名誉教授は、客観的資料がなく意図的に事実を歪曲しているケースが多く、調査に採用されたのは19名の証言のみ、と証言集に記述している。この証言集によれば、権力による強制連行があったとしているのは4名、そのうちの2名は釜山と富山への民間遊郭への連行であり、戦地でないこれらに官憲が連行するはずがなく、他の2名は貧困のため職業的売春婦となった人たちであり、日本政府に対する補償裁判での証言との食い違いが大きく、これらも信憑性がないことが明らかとなった。
1994年になって、村山内閣は平和友好交流計画を発表し、この中で慰安婦問題に関し日本政府と民間の募金により1995年、財団法人女性のためのアジア平和国民基金を設立し、この基金は民間資金による償い金5億7000万円(一人につき200万円)、政府資金による医療・福祉支援事業5億1000万円、および内閣総理大臣のお詫びの手紙を元慰安婦に贈った。これは慰安婦問題を穏便に解決する方策として実施されたものであるが、それでは反日活動の大義が失われるため、韓国挺身隊問題対策協議会は元慰安婦の償い金の受け取りに反対した。
他方、日本弁護士連合会は1992年、戸塚悦郎弁護士を海外調査特別委員に任命し、彼は国連に対するロビー活動を開始したが、NGO国際教育開発代表として国連人権委員会で発言する資格を得、韓国の運動団体とともに慰安婦問題を性奴隷として扱うよう同委員会およびその下部委員会に数回にわたり告発した。その結果1993年7月、国連人権委員会の小委員会はスリランカのラディカ・クマラスワミを戦時奴隷制問題の特別報告者に任命したが、クマラスワミ報告者は日本、韓国、北朝鮮での調査を実施後、1996年『女性への暴力に関する特別報告書』を提出し、国連人権委員会はこの報告書を採択した。しかしこの報告書は聞き取り調査の裏付けも検証せず、当時日本では既に虚偽であることを本人が認めた吉田清治の著書、吉田の著書を事実として転用している香港在住のオーストラリア人ジョージ・ヒックスの英文著書『従軍慰安婦』、および北朝鮮政府がプロパガンダとして積極的に提供した裏付けのない情報などを事実として記載した極めて不正確な報告書であった。この報告書は日本政府に対し慰安所制度が国際法違反であることを認め、被害者個人に謝罪し補償を行い、関連資料を公開し、歴史的事実を教育に反映させ、この制度の責任者を処罰することを勧告している。これに対し当時の日本政府は報告書の事実誤認をきちんと指摘せず、既に『河野談話』で道義的責任を認め、アジア平和国民基金で被害者への補償を実施済みである、と述べただけである。
このクマラスワミ報告書への日本政府の不適切な対応が1998年の国連人権委員会の小委員会での旧ユーゴスラビアとルワンダを扱ったマクドゥーガル報告書『武力紛争下の組織的強姦・性奴隷制および奴隷制類似慣行に関する最終報告書』の付属文書に日本の慰安婦問題を再提起させることとなり、国際社会ではクマラスワミ報告書の内容が事実であると受け止められることとなった。
2007年3月の参議院予算委員会で安倍総理大臣は河野談話をこれからも継承するが、政府の調査では朝鮮半島での官憲による狭義の強制性を裏付ける資料は見つからなかった、と発言したが、クマラスワミ報告書やマクドゥーガル報告書が国際世論となっている状況下でワシントンポストやニューヨークタイムズなどの海外メディアは、拉致問題で国際的支援を求めるなら、日本の犯した罪を認めるべきだ、と安倍総理大臣を強く非難し、以来、これらのマスメディアは安倍総理大臣を極右の保守政治家とみなすようになっている。
日本とアメリカは戦後、多くの人たちの努力により同盟関係を深化させてきたが、残念なことに、アメリカにおける親日的な保守派の政治家や官僚なども慰安婦問題についてはクマラスワミ報告書やマクドゥーガル報告書が真実だと信じており、それが2007年のアメリカ連邦政府下院121号決議案の成立につながっている。知日派の代表格であるアーミテージ元国務次官補も2013年10月に自民党の政策勉強会で日米同盟の重要性などについて講演した後、慰安婦問題に対する日本政府の態度を非難したという。ケビン・メア元アメリカ国務省日本部長も、慰安婦問題については国際社会では誰も日本に同情しない、と言っている。
日本が国連で拉致問題に関し北朝鮮を非難しても、北朝鮮代表は戦前、日本が20万人の朝鮮人女性を性奴隷にしたと言い、それに対して日本代表が数字は誇張されている、既に謝罪し補償した、と反論しても、国際社会では日本が大勢の朝鮮人女性を性奴隷にしたのは事実だと理解し、日本の拉致問題の主張に十分な賛同を得ることが出来ていない。
遊郭や公娼などは現在社会では女性蔑視と理解されるが、第二次世界大戦以前の世の中では多くの国で合法であり、貧困家庭の女性が売られたことも事実である。特に戦前の朝鮮半島では貧困層が多く、多くの女性が娼婦として不幸な人生を歩んだことは気の毒なことであるが、慰安婦の実態は日本軍での需要のために民間業者が貧困家庭の女性を勧誘したことであり、慰安婦は官憲に強制的に拉致された性奴隷である、と非難されるのは正確ではない。
中国、韓国、北朝鮮の国際社会における広報活動は積極的であり、アメリカでも中国系アメリカ人や韓国系アメリカ人は地方議会、連邦議会、ホワイトハウス、ロビイストなどに積極的に働きかけを行っている。アメリカには世界抗日戦争史実維護連合会(Global Alliance for Preserving the History of World War II in Asia)という中国系アメリカ人による反日団体があり、日本軍が30万人の中国人を虐殺したというアリス・チャンの著書『ザ・レイプ・オブ・南京』の宣伝、戦時中の強制労働賠償、慰安婦などについて積極的な反日活動を行っており、2007年のアメリカ連邦政府下院121号決議案成立や各地での慰安婦碑・像の設置などで成果を上げている。これらの団体の中には中国政府や韓国政府から資金援助を受けているケースもあると聞く。現状を放置すれば、アメリカ各地に慰安婦碑や像が設置され、日本だけが非人道的な国家で、日本政府はその行為を謝罪していない、と非難され続けられなければならない。また北朝鮮は韓国で自国に有利なプロパガンダを積極的に行っており、韓国の野党やマスメディア、韓国挺身隊問題対策協議会を初めとする反日団体に影響を与えており、その真の狙いは日韓、米韓を離反させ、朝鮮半島を支配することである。
中国や韓国に較べて日本政府の国際世論醸成の努力は極めて心もとない。このたびの安倍総理大臣の靖国神社参拝についても、中国や韓国はアメリカ、ロシア、ドイツなど主要国に働きかけ、国際社会で日本を孤立化させようとしている。尖閣諸島の領有でも明らかだが中国は三戦と称して世論戦、心理戦、法律戦により自国にとって有利に国際世論を導こうとしているが、韓国もこの点では日本よりはるかに進んでいる。韓国は世界中で日本海を東海と呼ばせるキャンペーンを展開しているが、既にアメリカを含めかなりの成果を上げている。
日本人は和を持って尊しとなす国民性であり争いを避けたがるが、国際社会では以心伝心は成り立たない。日本政府も中国流の三戦を十分意識して、積極的に安倍総理大臣の靖国神社参拝の真意を同盟諸国に伝えてゆくべきである。また、慰安婦問題についてはクマラスワミ報告書やマクドゥーガル報告書が事実を誤認していることを正確かつ丁寧に説明し、少なくとも同盟国であるアメリカには事実関係を完全に理解してもらうよう、議会、ホワイトハウス、マスメディアなどに対し政治家や外務省・在外公館が広報活動に努力するだけでなく、優秀なパブリック・リレーションズの専門家やロビイストなども活用すべきであろう。日米同盟を確固たるものとするためにも、また拉致問題解決の一助のためにも日本政府はしっかりとした戦略を立案し、実施すべきでる。
それにつけても悲しいことは、慰安婦問題が大きな国際政治問題となったのはすべて日本人によってである。前述の吉田清治、朝日新聞記者植村隆、戸塚悦郎をはじめ、それ以前には千田夏光、韓国人に慰安婦を名乗れば金がもらえる、とそそのかして日本政府に対する慰安婦裁判の原告に仕立て上げた活動家や人権派弁護士たち、それに意図的であったとされている朝日新聞の多くの誘導記事や誤報など、彼らは戦後多くの人々によって築き上げられてきた日韓関係を結果的に台無しにしている張本人たちである。
Posted at 2014-01-09 18:14
People Who Wowed This Post
Posted at 2014-01-10 23:28
People Who Wowed This Post