ボーイング787のシアトルでの初飛行(ANAより借用)
ボーイング787(ANAより借用)
シアトルとその周辺では、最近でこそMicrosoft、Starbucks Coffee、Amazon.comなど日本でも有名な企業があるが、くまごろうが移住した1970年代の大企業と言えば世界最大の材木商であるWeyerhaeuserとBoeingくらいであり、ボーイングの景気は即シアトルの経済に直結しているため、同社の動向はマスコミのみならず一般市民にとっても大きな関心事であった。そのボーイングが次世代の旅客機として787を発表したのは2003年であり、2004年4月に全日空が50機を発注してローンチカストマーになったことで開発が始まった。計画では2008年に1号機が引渡されることになっていたが、設計変更、軽量化、強度不足、ストライキなど幾多の問題が発生し、実際には2011年11月に世界で始めて全日空国内線に就航した。2013年1月にリチウムイオン電池が発火するという事故が日本航空機と全日空機で発生したためすべての787の運航が一時停止されたが、バッテリーの過熱防止対策、充電器の改良、万一過熱しても発火に至らない格納容器の導入などの発火防止策がアメリカ連邦航空局により同年4月に承認されて運航が再開された。2016年3月現在の受注機数は1,139、運行機数は393であり、開発パートナーである全日空は46機、日本航空は23機を運航している。
787はDream Linerと呼ばれ、これまでの旅客機とは大幅に異なる設計となっている。その中でも機体を釣竿やゴルフクラブのシャフトなどに利用されている炭素繊維強化樹脂(CFRP; Carbon Fiber Reinforced Plastics)としたことは画期的である。従来から尾翼の一部などにCFRPを採用した旅客機はあるが、機首から尾翼付近まで胴体をすべてCFRPとしたのは787が初めてであり、その他にも主翼の一部、尾翼や垂直尾翼の一部にもCFRPを採用し、重量ベースでは機体の約50%がCFRPとなっている。CFRPは直径数ミクロンの炭素繊維を重ねてエポキシ樹脂を含浸させることにより成形するが、胴体部分は6つのセクションに分割して一体成形の後、直径9メートル、長さ30メートルのオートクレーブと呼ばれる窯で加熱・加圧することにより製作される。CFRPはこれまでの旅客機の主要材料であるアルミニウムと比較して軽量、高耐久性、腐食しにくさなどの特徴がある。また従来のアルミニウム製とは異なりリベットなどの止め金具が大幅に削減され、機体重量削減の一助となっている。CFRPに使用される炭素繊維は東レ製で、同社はシアトル郊外の工場で生産している。
CFRP製機体の採用により機内環境が改善され、快適な空の旅の一助となっている。即ち従来の旅客機では腐食防止のために機内湿度は数パーセント程度と低く保たれていたが、787では空調システムに加湿機能を加え10数パーセントにしたので、喉の痛みが減るなどより快適な環境が整えられた。また、軽量化の利点により機内の気圧をこれまでの標高8000フィート(2400メートル)基準である0.75気圧から標高6000フィート(1800メートル)相当の0.8気圧としたことも耳の不快感を削減し快適性の向上に貢献している。機内の照明はLEDで色が可変であり、また窓は大きさが従来の旅客機の1.3倍となり、シェードは電気式で5段階の明るさに調整出来る。
旧式の飛行機ではパイロットの操縦操作はほとんどが金属製のロープやロッドによる機械的リンクを介して油圧式アクチュエーターに伝わり、昇降舵、方向舵などを制御していたが、技術進歩により最近の飛行機では機械的リンクを電気信号に置き換えるフライバイワイヤが一般的になっている。フライバイワイヤとなってから機体にかかる加速度や動きをセンサーで検知してコンピュータで処理することにより、格段にスムーズな飛行が可能になった。しかし電気信号を伝える銅線は重く、保守点検が必要であり、また電磁干渉による誤作動の恐れもある。将来の飛行機では銅線の代りに光ファイバーを使用するフライバイライトとなることが予見されているが、それは光ファイバー自身が銅線よりも軽量である上、複数の電線の信号が1本の光ファイバーに多重化して高速大容量の伝送が可能であり、銅線では必要な電磁シールドを省略出来るので大幅な軽量化を図ることが出来、更に消費電力が低減し、防火性にも優れているなどの特徴による。787では基本的にはフライバイワイヤが採用されているが、機体の加速度や姿勢のセンサーに関してはフライバイライトが採用されており、重量の軽減とメンテナンスの簡素化に貢献している。高精度なセンサーとそれらから得られるデータのコンピュータ処理能力の高さから、787はFAA(Federal Aviation Administration、連邦航空局)により視界がゼロでもパイロットの操作なしでの着陸が承認されている。
従来の旅客機は飛行に必要な推力はエンジンを使用し、他のシステムの動力源として電気、油圧、それにエンジンで発生させた高温高圧の空圧を使用していたが、787ではエネルギーの効率的利用のため、空圧を使わずに機内のエアコンディショニングや翼の凍結防止システムは電力を使用している。電力源はエンジンに装着されている発電機4基だが、バックアップとして尾部にある補助エンジンに装着されている発電機2基、更にはこれらのすべてが使用出来なくなった際のRam Air Turbineと呼ばれる風力発電機1基が搭載されており、非常時でも重要なシステムに継続的に電力が供給される。
787のエンジンはロールス・ロイス社製Trent 1000またはゼネラル・エレクトリック社製GEnxターボファンエンジンが用意されているが、ファンによるバイパス流と燃焼ガス排気ジェットの流量比(バイパス比)が10.0~11.0と従来のターボファンエンジンの8.5~8.7に比較して高く、その結果燃料効率が向上し、騒音も低減している。
787の設計コンセプトは高燃費性能、高速化、長航続距離であり、CFRPの採用による軽量化やエンジン性能向上により他の同型機種と比較して燃料効率は約20%高く、ワイドボディ機では最高のマッハ0.85での巡航が可能である。航続距離はモデルによるが14,200~15,750キロメートルで、この性能を生かして大型機を投入するほどのペイロードが見込めない地方空港に中型機として運行することが可能になり、航空会社の経営効率改善に貢献している。これまではハブ空港まで大型機、ハブ空港からは中・小型機で目的地に旅客や貨物を輸送することが一般的であったが、787は乗換えなして目的地まで運行することを可能にした。これまでに全日空はムンバイ、バンクーバー、シンガポール、ホノルル、シアトル便などに、また日本航空はニューヨーク、ボストン、ダラス・フォートワース、パリ、フランクフルト、ヘルシンキ、モスクワ、ハノイ便などに787を投入しているのは、このような787の性能を活用しているからである。
787のもうひとつの特徴は全日空が開発段階から携わったことにより、機体の約35%が三菱重工、川崎重工、富士重工、東レなど、エンジンの約15%が三菱重工、川崎重工、石川島播磨重工など、また機内設備などについてはパナソニック、ジャムコ、GSユアサ、タイヤはブリジストンなど日本企業により製作されており、787は準国産機とも言える点である。特に世界で初めて一体成形によるCFRP製主翼の生産を担当している三菱重工は新しい旅客機がCFRP製主翼を採用することを予見し、将来のビジネスチャンスをうかがっている。
多くの特徴を持った787は大量輸送に適さない目的地にも効率の高さにより運行が可能となり、世界の航空会社が新たな路線に787を投入している。快適な機内環境と目的地へのダイレクトフライトは空の旅を一層楽しいものにしてくれるだろう。
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Posted at 2016-08-19 18:00
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Posted at 2016-08-20 15:51
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Posted at 2016-08-26 01:36
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Posted at 2016-08-26 10:46
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