くまごろうのサイエンス教室 『地球のような惑星は存在するか?』
Jun
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太陽のような恒星は核融合により水素、ヘリウム、炭素、酸素などから原子番号26の鉄の原子核まで生成するが、質量の大きい恒星がその寿命を終えて超新星爆発する時にはもっと重い他の元素が生成し、またこれらの元素が宇宙空間にばらまかれる過程で水蒸気、メタン、二酸化炭素などの分子が生成した、と考えられている。宇宙で一番多い物質は水素でその次に多いヘリウムとあわせると約99%を占め、次に多いのが酸素なので水素と酸素から出来た水の分子は宇宙ではありふれた物質と言える。
水は酸素原子に2つの水素原子が結合しているが、水素原子はお互いが約104度の角度で酸素原子と結合しているため、水分子には電気的にプラスの部分とマイナスの部分があって、プラスの部分が隣の水分子のマイナス部分と電気的に引きつけあう。これは水素結合と呼ばれ、液体の水がいろいろなものをよく溶かす要因となっている。この特殊な性質が生命活動に必要な分子などを運搬する媒体として重要な役割を果すのだ。土星の衛星タイタンにはメタンの湖があることがわかっているが、メタンには水素結合がないために液体の水のような媒体としての機能はなく、また地球上の生物の細胞膜をつくることが出来ない。
太陽系は約46億年前に超新星爆発によって生まれた水素やヘリウムなどの星間ガス、水、二酸化炭素などの分子雲、宇宙のちり(星間塵)などが集まって太陽と太陽系の惑星が生まれたというのが現在の通説である。初めに大きさが1~10Kmの微惑星が生まれ、それらが互いに衝突してできたより大きな原始惑星が更に衝突して生まれた地球は、誕生直後は原始惑星の衝突エネルギーで地表が高温になり、表面は融けたマグマで覆われたマグマオーシャンの状態であったが、衝突がおさまってくると地表の温度が低下して固まり、薄い地殻が形成された。地殻形成後地下のマグマが噴出する火山活動が活発になり、二酸化炭素、水蒸気、メタン、アンモニアなどが放出され高温の大気を形成した。地殻の温度が更に下がると大気温度も低下して水蒸気は凝縮して雨となって地球表面に降り注ぎ、約40億年前に地表の約70%をおおう海が誕生したが、この時代の雨は二酸化炭素、塩素、二酸化硫黄などを溶解した酸性雨のため、初期の海は酸性だったと考えられている。陸地に降った雨は岩石に含まれるカルシウム、ナトリウム、マグネシウムなどの金属を溶かして海に流れ、海水を徐々に中和するとともに海水に溶けていた二酸化炭素を炭酸カルシウムとして海底に固定し、これが堆積して岩石となった。
原始惑星の衝突がおさまった地球の気温は太陽光(恒星放射)によって保たれるが、地表や雲などによる反射や散乱を除いた地球が受取る正味の熱量を惑星放射と呼び、現在の地球では太陽放射の約70%である。二酸化炭素は温室効果ガスとして話題になっているが、水蒸気やメタンは二酸化炭素よりも温室効果が高く、これらを多く含んだ当時の地球大気は地球を温暖に保っていた。約27億年前、中和された海の浅瀬に単細胞のシアノバクテリアが生まれ、二酸化炭素と水を使って光合成を行うことによって炭水化物を合成するとともに、副産物である酸素が地球大気に供給されることとなった。光合成による二酸化炭素の消費と酸素によるメタンの分解により、大気の温室効果は徐々に低下していった。
地球では海の誕生からシアノバクテリアが生まれるまでに13億年かかっているが、このことからもわかるように惑星に生命が誕生するためには長期間にわたり地表に液体の水が存在することが必要である。そのためには惑星の大気が散逸しないことが重要になってくる。大気が散逸すると海水が蒸発して惑星から水が失われ、また大気の温室効果ガスがなくなると地表は冷えて凍結するからだ。大気温度が高いと気体分子の運動エネルギーが高くなり、惑星の重力をふりきって宇宙に散逸しやすくなる。また惑星が小さいほど重力が弱いので大気が散逸しやすく、大気温度によるが火星より小さい惑星では大気を保持し続けることは難しく、大気が散逸して水も水蒸気となって失われる。NASAの探査機キュリオシティが調査を進めている火星では、過去に表面に液体の水が存在した痕跡は見つかっているが、現在は液体の水はないようだ。
惑星の大気温度が高くなる原因のひとつが温室効果ガスである二酸化炭素の増加である。地球では炭素循環と呼ばれるシステムが大気中の二酸化炭素量が過大にならないことに貢献している。炭素循環とは火山活動による地球内部のマグマからの二酸化炭素放出、二酸化炭素が雨に溶けることによる炭酸の生成、地上に降った酸性雨が鉱物を溶解することによる化学風化、雨に含まれた炭酸が地表や地下の岩石を溶かすことによるカルシウムイオンの海への供給、炭酸とカルシウムイオンによって生成した炭酸カルシウムの海底への堆積、海底の炭酸カルシウムのプレート移動に伴う地下のマグマへの供給、というサイクルである。もしも大気中の二酸化炭素が増加すれば温室効果により大気温度が上昇し、その結果海水が蒸発して降雨量が増え化学風化が活発化して二酸化炭素が消費され、温室効果が低下して大気温度が下がるという、一種の大気温度自動調節の役割を担っている。炭素循環で重要な役割を担うのがプレートの移動であるが、太陽系でプレートが移動する惑星は地球だけだと言われている。
惑星の中心にある恒星からの恒星放射が増大すると大気温度が高くなり、やがて大気が散逸してしまう。恒星放射は恒星の誕生直後は小さいが徐々に大きくなる傾向にあり、太陽も10億年後には太陽放射が大きくなりすぎて地球が液体の水を保持できなくなるという研究もある。逆に二酸化炭素が減少しすぎて温室効果が下がり全球凍結に至ることがある。近年、地球が過去に全球凍結した、というスノーボールアース仮説が有力視されているが、この仮説では地球は約23億年前、約7億年前、約6億年前の3回、全球凍結したという。地球の全球凍結の原因については未知のことも多いが二酸化炭素が炭酸カルシウムとして海底に固定され、大気中の二酸化炭素量が減少したこと、シアノバクテリアによる光合成に二酸化炭素が消費されたこと、光合成によって生じた酸素が大気中のメタンを分解したこと、などにより温室効果ガスが激減して地表温度が下がり、極域から水が凍結した、という説が有力だ。地球の一部が凍結すると太陽光の反射が増え、惑星放射は急速に減少して一層凍結が促進されて全球凍結に至ったと考えられる。シミュレーションによれば全球凍結の地球では赤道でも零下40℃で、海水は深さ1000mまで凍結していた。このような過酷な条件でも一部のシアノバクテリアなどは生存出来るところを見つけて生き延び、また全球凍結の状態でも地球では火山活動は続いており、少しづつ二酸化炭素が大気中に蓄積することにより温暖化が進み、ゆっくりと氷が融けていったと考えられている。
全球凍結から脱した地球ではシアノバクテリアが急激に繁殖して光合成を行い、大気中の酸素濃度が急速に上昇した結果、約19億年前に酸素を使って有機物をエネルギーに変える真核生物が生まれたという説がある。約7億年前と6億年前の全球凍結後、大気中の酸素濃度は再び上昇し現在とほぼ同じ21%程度になった。酸素濃度が高くなったことにより生命はエネルギーを効率的に得ることが可能になって生物の進化がおこり、多細胞生物のようなより高等な生命が生まれた。もしも数回の全球凍結が起こらなかったら、地球には哺乳類のような高等動物が生まれなかったかもしれない。
地球は単に地表に液体の水が存在するというだけではなく、大気を保持できるだけの重力があること、地殻が移動することによる炭素循環があること、シアノバクテリアの繁殖により酸素が大気に供給されたこと、真核生物が生まれ進化する環境が存在したことなどにより現在のような進化した高等動物が生存している。更には高等生物の構成元素である水素 酸素 炭素 窒素 カルシウム 硫黄 ナトリウム カリウム 塩素などは海水中に存在するがリンはあまりない。DNAの重要な構成元素であるリンの供給源は大陸の岩石であり、地球がすべて海におおわれることなく大陸が存在したことも高等生物の誕生には重要である。
太陽系には多くの彗星が飛来するが、質量が地球の300倍もある木星の存在により地球は彗星の衝突から守られている。また地球の自転軸の傾斜は月や太陽からの潮汐力により約23.5度に保たれており、気候の変動を和らげている。更に地球内部の鉄やニッケルの流動する金属により磁場が発生し、その結果地球の周りの磁場が高等生物に有害な太陽風や宇宙線を防ぐ役目を担っている。仮に太陽の質量がもっと大きければ現在の地球の公転軌道では暑くなりすぎて水が液体として存在しにくくなる。逆に太陽の質量が小さいと液体の水が存在しうる公転軌道は小さくなり、生物が生きるためには地球は太陽の近くを公転しなければならないが、太陽からの紫外線が強くなって生物に有害となる。またこの場合太陽からの強い潮汐力を受け自転が公転と同期しやすくなり、地球のひとつの面が常に太陽に向くことになって生物には厳しい環境になると思われる。
このように考えてくると太陽系の中の地球は哺乳類のような高等生物が存在するのに必要な条件がすべて整っている。これは宇宙の中の偶然の積み重ねのように思われ、次々とハビタブルゾーンに惑星が発見されても高等生物が存在する可能性は限りなく少ないのだろう。でも宇宙のどこかには地球と同じような偶然の積み重ねで高等生物が存在するかもしれないと思うと、この宇宙は限りなくロマンチックに感じられるのはくまごろうだけだろうか。