窓の話4『ガラス』
Aug
11
何枚もの長方形のガラス板をブラインドのように連結して開閉するジャロジー窓を除いて、開閉する窓ではガラスは必ずサッシュにはめられるが、サッシュを開閉しない固定窓の場合、サッシュを使わずに窓枠に直接ガラスをはめることが多い。このような方法をディレクトセット(Direct Set)と言う。これに対し開閉しない固定窓でもガラスをサッシュにはめ、このサッシュを窓枠に取付ける方法をサッシュセット(Sash Set)と呼ぶ。機能的には両者にあまり差はないが、建築学的に見るとデザインの上で大きく異なることがある。一例をあげれば添付の写真に示したように、観音開きのケースメント窓の上に半円形の窓を取付ける場合、サッシュセットではケースメント窓と半円窓のかまちの幅が同じであるのに対し、右端に示したディレクトセットでは半円窓のかまち幅がなく、下のケースメントに較べてガラスの幅が揃っていない。この差は些細な事のように見えるが、建築学的に正しい建物を建てる場合には、部品の点数が増えてもサッシュセットの固定窓が必要となる。アメリカにはこのような点にも配慮しているこだわりの高級木製窓メーカーがある。
19世紀にシーメンス炉が開発されて、板ガラスの大量生産が行われる以前は大きな板ガラスを造ることは困難だった。そのため宮殿や教会などの大きな窓にガラスをはめる際、サッシュに格子をつけてその格子に小さな板ガラスをはめていた。そのなごりで大きな板ガラスが廉価に手に入る今でもサッシュに格子をつけることが様式として残っている。
現代の住宅においては窓やガラス戸などの開口部からの熱損失はとても大きく、2003年の(財)建築環境・省エネルギー機構資料は、日本の在来型のモデル住宅では開口部が冬の暖房時には住宅全体の48%の熱損失源となり、また夏の冷房時(昼間)には71%の熱流入源であると言う。
そのため、開口部における熱効率の向上は省エネルギー住宅にとってとても重要であり、断熱性の高い2重ガラスの窓がはやりである。窓のガラスを1枚のものから2枚のペアガラスに代えると、ガラスを通しての放熱量(熱貫流量)が約50%となり、更に3重ガラスとすると33%、4重ガラスとすると25%まで低減するためである。しかし3重や4重ガラスの窓は構造が複雑になりコストが上昇する割に省エネルギー効果は限定的なため、2枚のガラスによるペアガラスの窓が省エネルギー住宅の主役となる。
通常ペアガラスを生産している工場は平地にあるため、このペアガラスを標高1500メートルのような高所に持っていくと、ペアガラス内外の気圧差のためにメタボおじさんのお腹のようにふくらみ、場合によっては破裂する。これを防止するために、高地向けのペアガラスにはブリーザーチューブと呼ばれる細い管を取付け、ペアガラス内外の気圧差を調整するようになっている。しかしペアガラス内部に湿った外部の空気が侵入すると、後述するがペアガラスの内部で結露して曇ってしまうことがある。一般的に高地では湿度が低いのでその恐れは高くないが、曇ったペアガラスは治らないので交換しなければならない。高級ペアガラスには2枚のガラスにはさまれたスペーサーと呼ばれるパーツに内径0.3ミリ、長さ300ミリ位のステンレス製毛細管を取付けて、スペーサーに囲まれた空気層に呼吸させる。この毛細管の直径と長さは、ペアガラス空気層の気圧が外部と平衡に達した後、外部から侵入する水分がペアガラスの寿命の間に内部結露の原因とならないよう、実験室での試験結果に基づいて決定されている。
現代の飛行機内部の気圧は0.8気圧程度に保たれており、これは標高2000メートル位に相当する。そのためペアガラスの窓を航空便で輸送すると、窓の寸法によっては機内でガラスが破損する恐れがあるので注意を要する。蛇足だが現在ボーイングが開発中の次世代旅客機787ドリームライナーでは機内の気圧がより地上に近いということなので、航空便によるペアガラスの輸送には朗報である。
Posted at 2010-08-20 19:00
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Posted at 2010-08-21 06:59
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