JR板橋駅から三田線新板橋駅へ歩く 乗り継ぎの道のりは日差しが脳天を突き刺す 肩幅の日陰からはみ出せない足どり 左手にペットボトル、右手にハンカチ 目指すは、とある餃子屋 北海道の叔父さんが私の退院祝いを 母のところに送っていた 十代の頃にバイクでよく旅をしていて 叔父さんのところへ二度ほど行った 道のりは遥か遠く二日ほど走って お世話になった叔父さんも昔、東京にいて そこの餃子が好きだったと言っていたのを思い出す 北海道に引っ越してからは食べていないから 元気になりました、と手紙を入れ冷凍配送した そして、私もそのお店でビールと餃子をいただく 冷たい麦汁が喉にグングンと刺さる この暑さの中、たどり着いた幸せがここにあった 皮の厚い餃子に醤油をつけ ホクホクしながら元気になる源が包まれ 美味しさは暑さを飛ばしていた ああ、ここへ来て良かった またビールを流し込む 私はすでに叔父さんの喜ぶ顔を思い浮かべ 幸せな気分になり 帰りの猛暑に負けない気がしていた
ご飯の支度は 詩を書くことに似ていて こんな作品に仕上げたいと あの言葉にこの言葉をふりかけ 三連は熱めにして思いを強め その後はじっくりとしなやかに リフレインでかき混ぜる 少し音読の味見してバランスをみる 辛めの題目を探し出し グッと流れを引き締めるように 感性を使った隠し味は オリジナリティのある作品に ここにこんな言葉を入れて 最後の味見にひとつ頷く おーい 詩ができたから集まって 今晩はけっこう腕をふるったぞ
夢など覚えていないほどの 眠りの深かかった朝 清々しく目を開けると 自分の中にも輝きを感じる 労働、食事、風呂 当たり前のことをこなし 自分らしさを維持するために しっかり眠る 身体が疲れていれば 眠りの質はいいようだ 当たり前を なるべく当たり前にこなし さあ、今日は 飲料缶、ビン、プラスチックゴミの 日だからまとめて出そう そんな朝の作業が 今朝は楽しいくらいだ
手術を終え三週間 足の痺れはあるが久しぶりの出勤だ 目覚めの弱気になっている自分 身体の心配より 学校へ行くのを嫌がる子どものような 精神状態になっている重さ 冴えない顔をいつも以上に洗う 電車に揺られながら 今日一日の仕事をシュミレーションし 少し引きずる足について何か言われたら どう返答しようか、など考え すでにもう疲れている 不安が汗となって出るような暑さ バス停を並ぶ蛇行線は得体の知れぬものに 自ら飲み込まれることを望んでいるのか 職場につきユニホームに着替える 腰のコルセットをきつく締め 成るがままに成るしかないと腹をくくり よし、と声を出し気合いを入れ 背筋をピンと伸ばした
① 紙を束ね背に溝 ②ボンドをつける ③背の補強 ④見返しをつける ⑤表紙をつける (ここはやっぱり厚紙か。 雑誌のピラピラな紙を分解し使用。 ただ、大きい紙がなかったので……) 悪い点 ⚪︎厚紙は必要 ⚪︎道具にこだわりが必要 ⚪︎切る、束ねる技術が全然だな ⚪︎老眼で苦戦 良い点 ⚪︎思ったよりは形になった ⚪︎わりとボンドだったが強度がある ⚪︎作業が楽しかった
詩を書かなくてもいいな。 そう昨夜、ふと思った。 書きたくないわけでなく、 書かないわけでもないが、 ただ詩を書くひとたちのために 何か役に立つことをしたいなあ、と。 詩に接するひとが元気になる そんな場所や時間を提供してみたい。 その場で完成度の高い詩集ができる 喫茶アンド製本所アンドその詩集を店に置こう アンドポエムリーディングのできる場 とか考えているのだが、どうにか実現したいなあ。 しかし採算は取れないだろうから、どうしたものか。 やめるか、いやいやもっと考えよう。 きっといいアイデアが出てくるはずだ。 まずは構想と現実的に必要なものを調べよう。 とりあえず、土日に製本場のアルバイトを探してみるか。 アルバイトでなくても見学でもいいか。 まあ、少しづつやっていこう。
八階から見える光る東京タワー 薬で痩せこけて背中を丸める母 死に物狂いで荒れた口に 食事を詰め込こもうとすれば その指は震えてボロボロと 涙のように零れ落ちた 明日は何が食べたい? 僕が買って来るから 楽しみに待っててよ 頑張っているね かあちゃん 病室ではみんな励まし合って けして忘れられない戦友たちと 長い、長い一日を戦っているんだね 点滴をぶら下げて見ているのは いつもの東京タワー 今日は何かあったかい 僕に聴かせてよ 抜けた髪の毛をあつめ 頑張っているね かあちゃん 久しぶりの外出、家へ帰ろう 親父も兄貴も待っているよ 首都高速6号線を抜けて待っていたのは 東京タワーとビルの間の きれいな、きれいな富士山 我が家に着けば親父、兄貴が待っていて 母は涙を流し みんなありがとう 何度も何度も震える声で言った 頑張っているね かあちゃん