アルペジオの音色 夏の夜はすこし涼しげを弾ませ iPadを両手にソファで寛ぎ 詩を書くつもりが 目を閉じて旋律を追いかけ 流される時間の渦に回り どこへ連れて行くのだろう 知らない街が輝いて その先にはきっと海があって 風が吹いて僕の髪は揺れ ハイビスカスが空を眺め 僕は両手をひろげて 鮮やかに光は輪郭を描き 青くどこまでも青く おやすみの入り口は夢のように 僕に麦わら帽子をかぶせ その先の物語りへ潜り込む
少し早く家を出て ホームのベンチに座わり 一編の詩を書いている 風が軽く吹き 蝉が遠くで鳴いて 昨日読んだ誰かの 教科書にあるような 詩を思い出しては考える 言葉を磨きすぎると 僕の好きな詩ではなくなる 未熟なところで止める そんな勇気も必要だろう ピカピカに光った詩を 書けないから負け惜しみで 言っている訳ではない ひとそれぞれ 好きな詩があって 僕の場合はズッコケた そんな詩を愛してしまう 自分らしくを具現する楽しみ やはりひとそれぞれ 突然に特急電車が通過する 偏った思考に刺さっては 抜けて行った 詩は自由だと思うと 自由という言葉に縛られ 自由でないといけない そんな枠に嵌ってしまう 読んでみよう再び 僕という枠を外して 教科書にあるような詩が 生きているかどうか
下駄箱から ビーチサンダルを取り出そうとすると カラン、と懐かしい音がした ひらがなをやっと書けるようになった頃 家の前は砂利のある道から アスファルトに変わり 僕は蝋石を使って話すようになった 隣のおばさんにアイスをもらうと 「じゃあ、あとで」と言って おばさんが家に戻ってからお礼を書いた おばちゃんだいすき ありがとう 向かいのおじいさんにお魚を見せてもらうと 「じゃあ、あとで」と言って 僕は庭から出てお礼を書いた おじいちゃんだいすき ありがとう またあそびにくるね お父さんはいつも仕事が忙しく 僕が眠った後に帰ってくる 「じゃあ、あとで」と独り言 おとうさんだいすき おかえりなさい お母さんは保育園にいる僕を 優しい笑顔で迎えにきてくれた 手を繋ぎ家まで帰る時のお話が楽しかった 「じゃあ、あとで」はなく、こっそり書いた おかあさんだいだいだいすき だからぼくがんばる 想い出は一瞬に蘇った そして門を出て懐かしのアスファルトに 僕は再び話しかけてみる ありがとう、いまでもだいすきだよ と
雲を吸い込んで生きているのさ だから僕はいつもみんなに ふあふあと飛んでいる奴だと言われる いいの、いいの、気にしない、気にしない 人生は楽しく行かなくちゃ それに特別な奴になってもいいじゃないか その前に特別でない奴を見たことないしね いいんじゃない、印象なんて作り話の続きだし 君の僕を見る曖昧をわざわざ象らなくとも 世界はあるようでないモノ 知識や理屈は羽根にはならないのだから 僕はいつだって雲を吸い込むのさ どんどん大きくなって両手で地球を抱きしめ ほっぺをすり寄せる現実がここにあって 幸せがクルクル回りだすと一日が動き出し 微笑みが夢だと気がつくのさ ほらっ、僕は飛んでいるでしょ 飛べないより飛べる方が楽しいから
合宿、里帰り、出張で家族が半数 そんな時に夕張メロンが数個送られてきたけど 私以外の残されたメンバーはその豪華フルーツが苦手 柔らかくなりだし、これでは腐ってしまう そんなわけで一個をパッコーンと割ってみた なんとも美味しそうな瑞々しいオレンジ色 香りはエレガントに私を誘う 種を弾く垂れる汁がもったいないくらい スプーンで厚めに果肉を抉りガブリと一口、二口 さすが、これはメロンのホームラン王だ そんな感動も三口目からは美味しさが鈍くなる 一番美味しそうなところを食べているのに あらら、あららとマイイベントは退潮 美味しさを共感しあえる家族がいない 寂しさを感じると美味しさは半減どころか 食べているという動作をしているだけのようになり 食卓というのは囲むものだと痛感する それなら残りのメロンを細かくして冷凍 メロン大好き派が帰ってきたら一緒に食べよう たぶんサクサクしながらもいい香りがするだろう きっと、 どうしてあのふたりは こんな美味しいメロンを食べないのかねえ と、盛り上がるに違いない
先が真っ暗で動けなくなる 身体的か精神的なことさえ判らず 理由は正直に殴ってくる 人生は幸せでなるべく長生きを その当たり前が消え去り 早く役割を終わらせたい と、疲弊の景色が自分に観えるが 暫し蹲っていれば身体に血が通い 鈍い光を纏いまた労働に打ち込んでいる この身の痛みを気遣いながら まだ行けるともう限界が大波小波 揺られながらまた床に崩れた 齋藤さん 凄い熱ですよ 夏風邪のようだ 確かに寒くて怠くて喉が痛い だが、原因がわかっても解決しない自分は 弱気になりながらも立ち上がるしかない