タバコをやめ 爪を齧るようになり 指をしゃぶるようになり なんだかイライラして うぎゃーうぎゃーと 泣き始めました そしてサチコは私を抱き抱え 歌うのでした 折れたタバコの吸殻で 男の嘘がわかるのよ と
ずいぶんと 俺は俺を忘れていたよ 昨日の雨 いつもの轍に溜まる水となり そこから青空を見つめ 風に気分よく揺れながら あーだのこーだの考え ゆるゆるに透過する 清々しい俺を感じては 濁りのない幸せとかいって 笑っている素っ頓狂 ああ好きだな 世間とは遠いところで この嵌って守られ 俺がどんな人間だとしても 透明に帰る俺がいる
たびたびたびだつ たびなれたたびびとは たびかさなるたびをするたびに たびせんだけがたびたった びたいっせんもないたびびとが たびのそらをみるたびは たびにたびするたびびとのたび たびびとはこれをたびたび たびしいという
初めて書いた詩を覚えている 内容は忘れているけれど ボクはその時に 言葉の連なる絵をきれいだと思った 頭の上を余白の雲にして 落ちてくる言葉は センチメンタルな雨ふり 愉快な雨ふり 句読点を使わないことに ちょぴり不安になった気持ちと 自由になれた不思議があった ボクの思いをふらすと この空は鏡より 正直に省みと希望を映し出す そして 今を過去と繋げるスペースをもち 今を未来と繋げるスペースをもつ シトシトランラン ボクはこころ模様を描きながら いつまでも遊び続けるのさ
窓辺 雲の隙間から日が届き タブレットの画面が暗くなり 私たちを見てください 青々した葉が輝き出して 揺れるほどの風に乗り いっしょに踊りませんか の囁きに軽くステップを踏み 手のひらをさし出して 閉ざされた場所から 聴こうとする音楽が流れ始め
アーティストたちが 俺たちは音楽を愛している 私たちは絵を愛している なんだかクサイこと言って なんて思っていたけれども ちょっと待てよ 自分を支えてくれた詩に 感謝をしたことのない気付きに 欠けていた心根を知る あたりまえの日常にある詩に これからは有りがきを思い綴ろう
オートメーションの波にのり 俺は組み立てられ丸い足の男になった メタリックの黒いカッコいいボディ 生まれた時はすでに成人として扱われ すぐ出荷され店頭に並んだ 俺をゲットしたのは大学生 痩せた身体だが力強くペダルを踏み 風を切り爽快に走らせる サドルの下に押し込んだ布を取り出し 「お前、イケてるチャリ男だよな」 と、磨いてくれるんだ 家族を知らない俺だけど 君を相棒と思うことができ 幸せを知ったんだ 桜吹雪を通り抜け 汗をかく君と蝉時雨 紅葉の峠をのぼり広がる絶景 雪の中で俺を手押しする君 そんな日々はとても早く過ぎる 俺の寿命は君ほど長くないだろう 至るところが壊れ始めた それでも君は器用に優しい手で労り 修理をしてくれたんだ しかし そんな日々は終わってしまう 君は結婚をして家族がふえ スポーツタイプの俺より 子どもを乗せられるママチャリを 使うようになったんだ 俺の役目はもう終わったかのように ガレージの隅へ置かれカバーで覆われる 真っ暗な世界が続いた もう捨てられるかもしれない…… せめてもう一度だけ君と走りたい それが叶うなら俺には悔いなどない 君を信じて願った 明るい世界は突然にやって来た 俺は眩しい中で君を見た 目尻に小さな皺をよせ微笑み 以前よりも落ち着いた感じだった 俺は分解され磨かれ オイルの染み込んだボディで復活だ そして走り出すと小さな自転車で 子どもが真剣な顔をしてついてくる 俺はなんて幸せ野郎なんだ 君が家族を教えてくれた 愛された幸せを感じている もしその日がすぐに来ようとも もう俺には悔いなどない 今はありがとうの気持ちのまま走ろう この先にある家族のため
僕は嘘でした その嘘が僕でした 嘘を許さないと 辛くて生きていくなんて 僕にとっては無理です 知らないんです 愛したりとか愛されたりとか 理想を描いてその中で 嘘の僕を演じているのです 理解して もらえないかもしれないけど 僕はそんな人間なのです 演技での生活には 攻撃や自虐してしまう気持ちを 遠ざけることができます 罪悪感はあり それが僕の小さな小さな 思いやりなのかもしれません 初めて本当の僕を語りました 嘘が嘘になる真実とは…… 僕が愛に触れますように (いつの日か その方が自分に嘘のない詩が 書けますように、と 最近は考えるようになりました)