98NOTEというPCでワープロを使っていた ハードディスクもなかったから ソフトのフロッピーを四、五枚入れ メモリ拡張にEMSを使い立ち上がるまで十分ほど ワープロにこだわったのは印刷でき冊子が作れたからだ ホッチキスで束ねた一冊だけの詩集 明朝体の文字が輝いて見えたのを今でも覚えている
雨が降っている、って いいじゃない、僕は踊るよ 葉っぱが雫で揺れるように 足を軽くあげて ヘイ、ヘイ、ヘイ こんな風に 君もやってみればいいさ いいね、いいね 君の方が上手だよ、敵わない ねえ、紅茶でも飲もうよ いいよ、いいよ、僕が淹れるさ ほら、いい香りだろ ああ、聞こえてくるね 雨の音に包まれて とっても平和な雨やどりさ なんか幸せだね 今日はこうやって ずっと、ずっと、ずっと もうこれ以上は何もいらない 君と僕と雨と紅茶
生まれて死ぬまで 誰かと比べられてしまうのか 自分からも比べてしまい 優劣で安心したり、不安になったり どこかで見切りをつけなければ 思いとは遠いところで つまらない自分をあきらめず 残された時間でのエネルギーを せこせこと費やして終わってしまう まだ遅くはないか 媚びずに詩を書いてゆけるだろうか 自分を開放するために 比べない世界におろおろせず 左右、後ろを見ずに進めるだろうか いや、出来る出来ないと考えるようでは すでに止まっている 決めてしまえ 今まで生きてきた結果を表現せず お前には何があるというんだ 信じろ、信じろ、信じてしまえ もうわかっているんだろ、なあ自分よ
ドアを開け、座りシートベルトをして、 キーを入れ、ブレーキを踏み込み、 キーを回し、ギアをドライブに入れ、 ハンドブレーキを解除、 ブレーキを解除 ウインカーをつけ、左右確認、 アクセルを踏む 歩行者、自転車に注意 ああ、渋滞 ガソリンもめちゃ高い 歩き、電車にしよう
女優の樹木希林さんが人生の幕をおろされた。とっても残念です。個性的で魅力のある存在には、圧倒させられましたね。そして、たくさんの名言を発していました。表現をしようとする者にとって教わることは多いです。女優として演じるために望ましいあり方を示した言葉もあります。こちらの言葉は俳優ではなく、詩人に置き換えても説得があります。詩で表現することは、自分の燃やした魂で感動させることではなく読者の魂を鎮めることにある、と。私も詩に感動はいらないと思っていたので、とても共感してしまいます。感動するような詩はすぐに消えてしまい、心根には響いていないのではないか、そう思っていました。岡本太郎の「一体これはなんなんだ!」のような言葉にも類似しているかもしれません。ただ、この境地にたどり着くには、生涯を掛けて詩を書かなくては行けません。私には無理だと思っていますが、もしかしたらといった心は忘れずに精進していきたいものです。ユーモアもある樹木希林さん、憧れ、理想ですね。 樹木希林さんのご冥福をお祈りいたします。 Zingaro(騎馬オペラ) 虚飾もなく 観客に媚びず 威張らず もの凄いサーカスを あたりまえの感じで演じてしまう そこに動く俳優たちが馬たちが 何かを観せるのではなく その燃やした炎で 見物人の魂を鎮めてしまう 美によって神に到達する道が もっとも望ましい ばるたばすはその道を 心こめてあるきつづけている 樹木希林 (ジンガロのパンフレットに寄せた言葉
さいとうさーん 呼ばれて振り向きながら返事 職場で三人のさいとうさんが返事 そっちのさいとうさん 俺は そっちのさいとうさんか〜い でも用のなかったふたりのさいとうさん 去ってゆく背中がちょっと寂しそう そしてくだらない優越感で 俺はそっちのさいとうです と微笑むのであった
自分にとって ひとからクレージーって クスッと笑われるくらいがいい ノビノビとやらかしている らしさを受け入れられた感が とっても幸せなんだ みんなそれぞれ だけどクレージーと ひとを怒らせてはいけないんだ らしく生きるのにも 相手あってのことなのさ
青空に微笑みを感じ 通り過ぎようとする雲は流れ 僕は背を逸らしたまま止まって その身体は通行人の掌で叩かれ 逃げ場所のない声は 僕の空洞に揺れながら籠っている 捨てれない日常が飽和したのち 望んで景色は動かない 僕は駅前の隅で 詩を書く人という銅像になった もう言葉が必要ではなくなり 言葉以前、言葉以上の存在 緑青を疎らに纏いながら 微笑みを真似ては語り出し 声にならない言葉を響かせ 通り過ぎる不条理に 納得しながら今日も止まっている
季節の香りを合わせ 聞いてみるのは薄紅か本紫か 進む進む 我ら馬が雑踏を潜り抜け ひとの言葉を雲の上に 清めた身体は匂いを包み 被せた右手の隙間から聞く流す 再び聞く流す 進む進む 五感から喜びを醸し出し 勝負はすでに流れた香りの中
職場に八十歳を過ぎた方が フルタイムで元気に働く方がいる 何か秘訣があるのだろうか それにしても凄い時代になったもんだ 生涯、働けるのならこんな幸せはないだろう 生まれもった身体や生活習慣、精神の違いだろうか いったい老人とはどんな人なのだろう 実年齢はもはや関係なさそうだ