強烈な向かい風が、カヤックを押し戻そうとする。 この橋をくぐれば、伊平屋島とお別れだ。 ここから先の海峡は、時間によっては激潮になる場所だ。波も高い。 単独の旅ならば引き返している状況だった。「早く渡れば、下げ潮が残っている」と忠さんは言った。 海図と潮汐表だけを見ている僕には「?」だった。「上げでしょ?」 皆が彼の判断を信じて、視界が悪く目標の伊是名島が見えない海峡をコンパス進路で進んでいく。海峡の半ばを過ぎたところで、突然パドルが軽くなった。 「あっ、今潮が変ったね!」 僕たちのカヤックは、下げの潮に運ばれはじめた。 そして、伊是名島の島影がはっきりと見えてきたのだ。 酔っ払いの忠さんではない、プロのガイドの姿を見た瞬間だった。
Posted at 2007-05-10 23:57
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