目的地を目指して出発。 今日の目的地は? 漠然とした計画はあるものの、自然の中ではその時折に色々な状況が起こりうる。 だから、「絶対に行かなければならない」場所などない。 天候、潮流、体力、上陸場所の状況・・・etc. 全てが判断材料だ。 「どの浜に何時に到着するか、どこでキャンプするか、行動計画書を一週間前までに提出すること」・・・と、言われても、できるわけないよね。状況を無視して、計画通りに行動したら、だいいち危ない。それはさておき、今日はもう少し先に進めそうだ。
ちょうど10年前のことだ。 僕がカヤックの初心者だった頃、今日と同じフェザークラフトのカヤックで慶良間の海を旅した。 その時、僕のカヤックを一緒に漕いでくれたのが、写真左の野村氏だ。 同じくそのツアー参加者で、僕らのカヤックの写真を残してくれたのが、写真中央の山下氏だ。 10年の時を経て再会しても、その空白の時間を感じることはない。 やはり、この海はタイムトンネルなのか。
風が北から南に廻り込んだ。 南風が吹き込む浜には波が入り込んだ。 しかし、この方向からの風ならば、北に位置する田名岬を比較的楽に通過することができるだろう。 このまま南風を切り裂きながら、田名の集落に戻り、その後具志川島へ向かうプランもあった。 それも、かなりの波の中を進まなくてはいけない。結局僕らは、難所の田名岬へ向かうことにした。 なかなか見ることのできない風景を見るために。
難所である田名岬の手前に到着。 途中の田名の集落では、地元の人に「岬は潮流も速いし、波も高い。危ないから近づくな。」と何度も言われた。 僕たちを心配してくれてのことだ。旅の人に敬意を払ったり、アドバイスしたり、もてなしたりする気持ちは、自然なことだと思う。 「一杯おごるから、お前の住んでいる所の事を聞かせろよ。」・・・と言う事も、昔は良くあったに違いない。観光化された地域は、遊園地(遊園地も好きですが^^!)と同じだ。 寂しいことに、「観光客=お金を落とす人」としか考えない。 そういう地域では「どうすればもっと観光客がお金を使うか」と知恵を巡らし、イベントやアトラクションを次々と立ち上げる。 それはそれで楽しい。 だけれども、カヤックはそういう乗り物ではない。 潮流や天候に逆らうことはできないが、エンジン船の入れないリーフを進み、人のいない浜に上陸できる、極めて自由な魔法の乗り物だ。今日も、満潮になりきらない海のリーフの隙間を縫って、気持ちの良さそうな浜に到着できた。 勇者たちは向かい風の中を、ここまで北上した。 まずは乾杯!久しぶりに酒を飲んだ忠さんが、「自由じゃなければ、死んだ方がマシだ!」と声を荒げた。 なんだか、忠さんが高貴に見えた。 僕も酔っていたのだろう。
島から島へ渡る。 途中でやめたくなっても、行くしかない。 苦しくても行くしかない。 僕は、カヤックで色々なことを学んだ。 ただがむしゃらに進むのではない。 事前に調べることも必要だ。 天候は? 潮汐・潮流は? どんなにがんばっても、自然には勝てない。 僕らは、何か大きな存在の手のひらで、遊んでいるにすぎない。 そういう事も、学んだことの一つだろう。伊是名島を出発し、伊平屋島へ。 観光化される以前の、慶良間列島を感じる。 この海はタイムトンネルなのか? 今日はさらに伊平屋島の北を目指す。