写真はWikimedia Commonsより借用
2014年のノーベル物理学賞は青色発光ダイオードの開発に成功し、21世紀の照明など多くの応用に道を開いたということで、赤崎勇教授、天野浩教授、中村修二教授に授与されることとなり、政府が科学技術創造立国を目指す日本は大いに盛り上がっている。現代の社会ではLED(Light Emitting Diode、発光ダイオード)は商業用・住宅用照明に加え、携帯電話、コンピューターのディスプレイ、テレビ画面などに使用される液晶のバックライトとしても広く使用されており、更には信号機や自動車の灯火などにも普及し始めている。
電磁波の一種である可視光は波長がおよそ380-760ナノメートルの範囲であるが、一般的に熱源から、または蛍光体への電磁波の衝突などによりに発生する。エジソンが発明した白熱電球はタングステンフィラメントを加熱して、その熱源から発生する電磁波のうちの可視光により発光し、また蛍光灯では水銀を封入した電極間での放電で発生する紫外線をガラス管内に塗布した蛍光物質に当てることにより可視光に変換して発光する。LEDの場合は自由電子の不足したP型半導体と余剰の自由電子を持ったN型半導体を接合して電圧を印加すると電子が流れ、電子の持つエネルギーの一部が熱や運動を介在せずに直接可視光に変化することにより発光する。このような発光メカニズムの違いにより、1ワットあたりの発光効率が電力の大部分を熱として失う白熱電球では15ルーメン、また電球型蛍光ランプでは60ルーメン程度であるが、白色LED電球では100ルーメンと高効率となる。また照明器具の寿命については平均的に白熱電球が1,000-2,000時間、蛍光灯が6,000-12,000時間であるのに対しLEDが40,000時間であり、量産化による価格の低減が進めばスウェーデン王立アカデミーが受賞理由として述べたように、21世紀世はLEDが世の中を照らすことになる。
一般の半導体ではシリコンにリンやホウ素など他の元素を加えたものが使用されるが、現在LEDに使用される半導体はガリウムを主体に砒素、燐、アルミニウム、窒素、セレンなどの元素を加えたものである。印加した電圧が低いと電圧を上げても電流が増大せず発光しないが、ある電圧を超えると電流の増え方が急激に増加し、電流量に応じて発光する。LEDは使用される半導体の材料によってさまざまな色の光を発する。
照明に不可欠な白色光は光の三原色である赤、緑、青のLEDを組み合わせることにより得られるが、また蛍光体に短波長の光を照射すると長波長に変換出来る性質を利用して、波長が450-495ナノメートルと短い青色LEDの光を蛍光剤に照射することにより白色光を発光することが出来る。赤色ダイオードや黄緑色ダイオードは1960年代に開発され、1980年頃には赤色ダイオードは電子機器などのモニターランプとして使用されるようになったが、青色ダイオードは1990年代初めの赤崎教授および天野教授による窒化ガリウムに関する基礎技術の開発、および1993年の中村教授をはじめとする日亜化学工業による高輝度青色ダイオードの実用化を待たねばならなかった。青色ダイオードの実用化によりLED照明は広く普及し、一部のメーカーではエネルギー効率の低い白熱電球は特殊用途にのみ生産することを決定している。また蛍光灯も内部に有害物質である水銀を含むため、将来は生産が大幅に削減される方向である。一般的なLED照明では紫外線や赤外線が発生しないため、文化財や美術工芸品などの展示用照明にも適している。
量子力学の理論により、青色ダイオードの発光材料はセレン化亜鉛または窒化ガリウム・窒化インジウム混晶などが適していることがわかっていたが、1980年頃は良質な結晶を作りやすいセレン化亜鉛が有望視され、世界の研究者はセレン化亜鉛半導体の開発に努力していた。しかし赤崎教授は結晶を作ることが難しいもうひとつの青色ダイオードの発光材料の候補であった窒化ガリウム半導体にこだわり、当時大学院生だった天野教授と共に、有機金属ガス原料を送り込むMetal Organic Vapor Phase Epitaxy(MOVPE)法を使ってサファイア基板の上に結晶の原子間隔の異なる窒化ガリウムを直接結晶化させるのではなく、より低温で窒化アルミニウムの結晶になりきらない軟らかい薄層を形成させてその上に窒化ガリウムを結晶化させることにより、1985年に高品質の窒化ガリウム結晶を作ることに成功した(窒化アルミニウム・バッファ層法)。生成した結晶はN型半導体であったが、赤崎教授と天野教授は1987年にマグネシウムをドープした結晶に電子線を照射することによりP型半導体を作ることにも成功した(電子線照射法)。
中村教授は日亜化学工業在職中に大量生産に適した窒化ガリウム半導体の製造を企て、1988年にMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置(有機金属気相成長法を利用した結晶成長装置)に着目し、この装置を所有していたフロリダ大学に客員研究員として赴任しこの装置に関する知見を深めた。帰国後、この装置を改良して水平方向から導入される原料ガスに加え、垂直方向から窒素、水素などの押圧ガスを挿入するツーフローMOCVD装置を開発した。この装置を使って1991年に高品質な窒化ガリウム・インジウム混晶の形成に成功し、また窒化ガリウムにマグネシウムを添加して水素を含まない雰囲気で熱処理することによりP型窒化ガリウムとなることを見出し、高輝度の青色LEDの量産化に成功した。中村教授については日亜化学工業との特許係争や、P型窒化ガリウムの開発は部下の研究員の功績である、などの理由で批判もあるが、中村教授に多額の研究予算を与えて青色LEDの研究を遂行させた日亜化学の経営判断、およびその期待に応えて実績を上げた中村教授の存在、更には青色LEDと最適蛍光体による白色LEDの開発が同社のLED業界での指導的地位を確定したのであり、中村教授なくしては高輝度青色LEDの量産化は実現しなかったであろう。
他のLEDの候補である酸化亜鉛をLEDとして使用するにはP型酸化亜鉛結晶の合成が必要であるが、酸化亜鉛は不純物や格子欠陥から供給される電子が多く、N型になりやすい。2004年、東北大学金属材料研究所の川崎雅司教授らのグループは成長温度調整法と呼ばれる原子レベルでの酸化物結晶制御技術によりP型酸化亜鉛の合成に成功し、これとN型を接合することにより青色LEDを作ることに成功した。酸化亜鉛青色LEDは窒化ガリウムLEDに比較して原料となる亜鉛が豊富に存在しかつ低価格のため、将来は酸化亜鉛により青色LEDの大幅な価格低減が期待される。
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Posted at 2014-11-11 21:09
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Posted at 2014-11-12 10:58
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Posted at 2014-11-12 19:37
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Posted at 2014-11-13 17:14
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