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- くまごろうのサイエンス教室『使用済み核燃料の処分』
2011年の東日本大震災による福島原子力発電所の事故以来、日本では相変わらず原子力発電所の運転再開に対する反対論が根強いが、直ちにすべての原発を廃炉にしても現存する多量の使用済み核燃料処分の問題が残る。使用済み核燃料には半減期が24,000年であるプルトニウム239など長半減期元素が含まれるため、ガラス固化して地下に保管するにしても地震や火山の噴火が多発する日本では安心して保管出来る場所が限定され、また科学的に適切と判断された地元では反対運動が起こるであろう。原発即廃止を主張する小泉元総理、細川元総理、菅元総理、あるいは多くの原発反対野党には使用済み核燃料の処置についてどのような名案があるのだろうか。
軽水炉ではウラン238が97%、放射性物質であるウラン235が3%の核燃料を使用するが、使用済み核燃料には概略ウラン238が95%、ウラン235が1%、プルトニウム239が1%、核分裂生成物が3%含まれる。核分裂生成物の中には中性子を吸収するために安定的な原子炉の運転を阻害する元素があるためこれを分離除去し、約1%づつ含まれるウラン235とプルトニウムを回収してウラン燃料やMOX(Mixed Oxide、2酸化ウランと2酸化プルトニウム混合物)燃料として再び軽水炉などで核分裂させれば、プルトニウム239は半減期が30年程度の核分裂生成物に変換することが出来る。MOX燃料を使用する軽水炉がプルサーマル(プルトニウムとサーマル・ニュートロン・リアクターからつくられた和製英語)であり、東日本大震災が発生するまでは日本でもいくつかの原発で営業運転されており、日本原燃は青森県六ヶ所村に再処理工場やMOX燃料工場を建設し、いわゆる核燃料サイクルを完成させる計画であった。再処理により使用済み核燃料に含まれる放射性物質を再利用するとともに、半減期の長い高レベル放射性物質を大幅に削減することが可能となるのだ。反対に原発即停止は核燃料サイクルを破綻させ、結果的に大量の高レベル放射性廃棄物を生み出すことになる。
再処理工場で分離された核分裂生成物には大きく分けてFP(Fission Product、セシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素129、テクネシウム99など)とマイナーアクチナイド(Minor Actinide, MA、ネプツニウム、アメリシウム、キュリウムなど)があり、これらの中には非常に長い半減期を持つ物質があるが、世界では核分裂生成物を半減期の短い元素に変換させる研究が行われている。日本では核種分離・消滅処理と呼ばれている長寿命核種の処理法が京都大学原子炉実験所や、高エネルギー加速器研究機構と日本原子力研究開発機構の共同事業であるJ-PARCの加速器駆動核変換システム(ADS)で研究開発が行われている。ADSは加速器からの高エネルギー陽子を鉛・ビスマス合金のターゲットに当てると鉛またはビスマスの原子核が数十個の破砕核となって壊れるとともに20-30個の高エネルギー中性子を発生するが、この中性子がマイナーアクチナイドの原子核に衝突すると核分裂反応が起きて人類が管理可能な半減期の短い核または安定な核となると同時に中性子を発生し連鎖反応が進行する。加速器駆動未臨界炉(ADSR, Accelerator Driven Subcritical Reactor)はADSの余剰なエネルギーを電力として取り出すことを目的とした次世代の原子炉である。原発を所有する世界各国では高レベル放射性廃棄物の処理は重要事項であり、このような加速器を使用した消滅処理を含めた原子炉の研究開発はフランス、ベルギー、アメリカ、ロシア、韓国などでも進められており、国際原子力機構、OECD、NEAなどによる国際協力も進行中である。
これとは別に日立製作所グループは原発の運転で生成する半減期の長い超ウラン元素(Trans Uranium Element, TRU、ウランより原子番号の大きいプルトニウムおよび前述のMA)をウラン燃料とともに燃料として使用する資源再利用型沸騰水型原子炉(Resource Renewable Boiling Water Reactor, RBWR)の研究開発を行っている。沸騰水型原子炉は世界中で多くの実績があり、この新型炉が2030年頃に実用化されれば、使用済み核燃料から排出される高レベル放射性廃棄物の半減期は10万年から300年程度まで短縮出来、人類による管理が可能になる。この新型炉は原発ではあるが、高レベル放射性廃棄物の消滅処理設備ともいえる。
福島原子力発電所の事故は東日本大震災によって引き起こされたとはいえ電源喪失に対する配慮が不十分な設計であったことは否定出来ず、周辺住民に甚大な被害を及ぼし、国民が原発の再稼動や新設に慎重になる気持ちはくまごろうも理解出来、特に長期間にわたり自宅への帰宅が叶わない被災者の将来に対する不安や望郷の念を思うと深く同情する。しかしわれわれは福島原発事故により多くのことを学び、その知識を生かして人類のより良い未来を切り拓いてゆくべきである。一回の事故により、原発は怖いから運転再開や新設を一切認めない、というのではあまりにも幼稚な思考法で知恵がなさ過ぎる。原子力規制委員会がこの事故を教訓として想定出来る現実的な自然災害に耐えうる、と認定した原発を稼動させることは、単に経済上の利点で判断されるべきではなく、上に述べた使用済み核燃料の危険性を取除いてゆくためにも必要なことである。それがこれまで原発を使用して利益を得てきた現代人が子孫に対して果すべき責任であると思う。
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