くまごろうのサイエンス教室『New Horizonsと冥王星』
Sep
25
太陽から地球までの平均距離を1天文単位(1 AU)と称し、現在の定義では1億4,960万Kmであるが、冥王星は太陽から平均で約40AUも離れているため冥王星までの旅はきわめて長い。少しでも早く冥王星に到達するためにNew Horizonsは史上最速の秒速16.3Kmの対地球速度で打上げられた。このスピードを確保するために打上げロケットはAtlas V型ロケットに5基の補助ブースターが取付けられ、また探査機は軽量化されて総重量は465Kgしかない。因みに本年8月に打上げられた国際スペースステーションへの補給機である日本の『こうのとり5号機』の総重量はペイロード5.5トンを加えると約6トンであった。
宇宙探査機として史上最速で打上げられたNew Horizonsは木星付近を通過する際に木星の公転運動と重力を利用したSwing-byにより毎秒4Km加速して冥王星に向った。このSwing-byにより冥王星までの到達時間が約3年短縮されたと言われている。木星軌道を過ぎると太陽からの光が弱く、太陽光発電が十分機能しなくなる。そのためNew Horizonsは原子力電池を搭載しているが、エネルギー消費を節減するために冬眠状態となって半年に1度再起動と点検を繰り返して47億5,000万Kmもの距離を旅し、9年半かけようやくて冥王星の近くにたどり着いた。因みに原子力電池とはプルトニウムなどの放射性元素の原子核崩壊の際に発生するエネルギーを利用して発電するが、寿命が長いという特徴があるものの、打ち上げ失敗の際に放射性物質を撒き散らす恐れがあるため限定的に使用されており、これまでは木星軌道より外側の宇宙探査機だけに搭載されている。
New Horizonsには7種類の観測装置が搭載されており、可視光カメラの他にも地質や地形を観測する可視光赤外線撮像分光装置、大気の量や組成を調べる紫外線撮像分光装置、冥王星とその衛星のカロンの大気の温度、圧力、密度などの観測装置、冥王星から宇宙空間に放出される粒子線などの測定装置などが搭載され、蒐集された画像やデータは今後16ヶ月に渡って地球に送信し続けることになっている。New Horizonsは冥王星の周回軌道に入るためのエンジンを持たないため、冥王星の軌道を通過後、太陽系の外縁天体群であるエッジワース・カイパーベルトの天体を目指して飛行を続け、その天体を近くから観測する予定である。
冥王星に関する情報はこれから送信されてくるデータの解析を待たなければならないが、これまでにNew Horizonsによって新たに明らかになったことは冥王星の直径が2,370Km、衛星カロンの直径が1,208Kmであること、月のようにクレーターがたくさんあるのではという予想に反し、氷河が流れたような平坦な部分や3,500m級の山のような地形があること、冥王星の大気は地表から50Kmまでとその上80Kmまでの2層となっており、大気の成分はメタンが紫外線により分解されてできたエチレンやアセチレンではないかと思われること、冥王星の平均表面温度は零下230℃、水の氷らしきものや窒素や一酸化炭素でできた氷が存在するらしいこと、などである。
冥王星は太陽系の他の惑星とは異なり、太陽系惑星軌道面に対し17度傾いた軌道面を持っている。また水星、金星、地球、火星は中心に金属のコアを持つ岩石惑星、木星と土星は岩石と氷が主成分のコアのまわりに大量の水素ガスのある巨大ガス惑星、天王星と海王星は岩石が主成分のコアのまわりに厚い氷の層があり、その外側に水素の大気のある巨大氷惑星であるのに対し、冥王星は岩石のコアとこれをおおう氷の層でできている。太陽系の惑星は隕石のような微惑星が衝突を繰り返してできたと考えられているが、冥王星やエッジワース・カイパーベルトの天体は衝突が少なく、これらを詳しく調べることにより地球などの惑星成因の解明が期待される。
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Posted at 2015-10-06 00:27
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Posted at 2015-10-06 15:30
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