僕が「いいよ」って言う時 君が喜ぶためなら 僕が我慢しようと思う でも表情に出てしまうのだろう 君は「よくない、ってことね」と 僕の「いいよ」は格好わるいし まだまだ乏しい演技力 それに「だめだよ」と言って 君に嫌われたくないと思っている ああ未熟、ちっぽけな僕
どうしたの いつもの君ではないみたいだ なんだろう金魚みたいに 一点を見つめてゆったりと くねくねしている姿は悪くはないが 突然のことで僕は開いた口が 塞がらない感じだよ なんだ僕も一点を見つめているって おかしいな腰がくねくね あれれあれれ金魚になったのか なっちまったようだ まあ悪くないような気はする 人間をさよなら 向こうから黒マントの金魚が来るぞ でかい目して大きな図体 ありゃ間違いなくボスだな 怖いから知らんぷりぷり ねえねえ君ったらどこへ行くの 僕も連れて行ってよ えっなんだって どこにも行けないだって 僕らは金魚になったから 水槽から出られないっていうのか そりゃそうだな ああこの運命を受け入れるよ ここは外よりは良いみたいだし 来た来たひとり来た 人間が覗いているよ 指でガラスを叩いているけど なんだろうねあれは こっちはストレスが溜まるんだよね やめてほしいよ 彼も口が開いて一点を見ている ああもうじきこっちへ来そうだな ようこそ金魚の街へ 仲良くやって行こうぜ そんなに悲しい目で 僕らを見ないで話をしよう ああそうそう 黒マントには気をつけた方がいい どうやら奴がボスのようだから ほらほらまた 人間がこっちを覗いているぞ ああ時間の問題だな ほら来た来た来たよまたひとり ようこそ金魚の街へ
もう居なくなって四年が経った ナナは夢の中で会いに来てくれる だけど触れることの出来ない距離をおき 表情から気持ちが読み取れない まだ寂しいよ こんなに時間が経っているのに 真剣にいつの日か 向こうの世界でナナに会えると思っている そして思いっきり抱きしめるだろう
奴等はクソ野郎だ。間違いなくクソ野郎だ。パンクロックの何が 悪い、俺たちが最高って感じている世界を消そうとした。学校は クソだ、奴等は最低のクソ野郎だ。 そして、俺たちは負けないくらいクソ野郎だ 「お前たち、また文化祭で雑音バンドをやるのか、もういい加減 に真面に生きようと思わないのか。あれは音楽じゃないし、この ままじゃ卒業できないだろう。静かに高校生活を送らないと大変 なことになるぞ、将来。わかっているのか」 奴等はクソ野郎だ。俺たちが学校を辞めれば祝いの酒でも飲むん だろうよ。ぶん殴って学校を辞めそうになったが、それは文化祭 が終わるまでお預け。我慢、我慢だ。 わかっているさ 俺たちがイマイチ戦っていないこと 俺たちもかなりのクソ野郎だ だからやってやる 次に賭けている クソ野郎が、ぶち壊してやろうと思っていたら、俺たちがぶち壊 されそうだった。クソ野郎が。 ドラム、クズテツ ギター、ショウイチ ボーカル・ベース、俺、トク 当日に突然、俺たちが大トリに変わった。おお、いいじゃねかよ。 そう思ったが奴等に騙された。ふざけんじゃねえ、クソ野郎が。 さあ、暴れてやるぜ、とマイクを取り叫んだ途端、全部の電源を 切りやがった、たくっよ、クソ野郎が。 俺はベースを床に叩きつけ、クソ野郎と叫んで引っ込もうとした。 その時、クズテツのバカが何を考えているのか、ドラムを叩き出 した。ショウイチはエレキ(エレキギター)を投げ後輩のアコギ(ア コースティックギター)を持ってきて弾き出した。俺、司会のマイ クを取り上げて叫んだが、それも電源切られてるし、もうマイク を体育館で腕組んでいる奴等に投げつけ、素で歌い出したぜ。ク ソ野郎が。 クソ野郎に捧げるバラードっ ヘイヘイ 歩き方も知らねぇ 笑い方も知らねぇ だからどうだっていうのさ イライラするぜ 今さら 教えてくれなんて言わねぇ 俺たちもう知ったのさ クソ野郎への叫び方を 真地面なんて言葉で 俺たちは騙されやしない 俺たちは終わらねぇ それどころかまだ始まってもねぇ ヘイヘイ 歩き方も知らねぇ 笑い方も知らねえ だからどうだっていうのさ イライラするぜ ヘイヘイ お前らクソ野郎 負けねぇくらい俺たちはクソ野郎 わかっているのさクソ野郎 死んでねぇぜクソ野郎 ぶっ壊した上を俺たちが歩いてやるぜ ヘイヘイ クソ野郎が ヘイヘイ クソ野郎が ヘイヘイ 始めてやるぜ 俺たちバラバラになっちまったがな 何処までも戦って行くだろう このクソ野郎が クズテツは奴等を殴って退学。ショウイチはガンガンにライブハ ウスで凄げぇバンドでギターを弾いている、そして退学。俺が一 番のクソ野郎だった。まだ、奴等と戦っているぜ、このクソ野郎 が。
伝えよう 伝わった の間は加速した 満たされよう 満たされた の間は加速した 待とう 待った の間は加速した 物事を詰め込み 加速する時間 生まれた 死んだ の間は加速するのか 最近 退屈が埋まり 時間が短くなった
先生の目を盗みながらノートに さっさっさとぐちゃぐちゃな字で 詩を書いている 自分しか読めない字 もし取り上げられても…… おっとバレたか ヘッヘッヘッ読めないだろ先生 つまらない授業を受けている 苦痛な感じを詩に書いているんだよ ヘッヘッヘッ
風の指が頬を撫で 流れる行き先は懐へ向かう 静かな夢の中は香りで満たされ 忘れよう涙が顎を歩む 帰る今の私が立つ此処 彼処ではなくやはり此処だった 土に染み込む情け玉は 拡がらずに慰めを知っている 遠くから焼け延びた斜めに 私も包まれる寄り添いの優しさ 我儘に振る舞ってしまった愚蒙を 紅く染まる感情に変えて
相変わらずの雨がいい 包まれている響き 冷たく染み込んできても 守られているように 裏切りのない惻隠 相変わらず落ちるのがいい すべて落ちては流れ 初めから決まった道を みんなが同じように進む 悩みのない小さな波 このままずっとがいい また会えるなんて 寂しくなりたくないから
父の三回忌以来だろうか 久しぶりに兄と会う 独身の兄は昨夜に腹痛があり 虫垂炎ということで緊急手術した 私は今朝、職場である程度仕事をこなし 早退して入院先へ向かった 腹膜炎はなく虫垂の切除だけで済み 立ち上がるときに痛いと言うぐらいで 元気そうであった 病室の窓からは秋桜が一面に広がっている 特にこれと言って話す話題もなく 白髪の増えた兄の後ろ姿が 父親にそっくりだったので指さし笑う なんだ、って顔して兄貴面を見せる その懐かしさにまた笑いが止まらない 相変わらずだなお前は、と兄 お互い様だよ、と私 仲は良くもないが悪くもない ここ三十年で会ったのは数回だけ 話す会話もほとんどないが 間違いなく兄弟である 不思議とこの距離感が自然である それが我々にはベストなのかもしれない