【Day381】グッバイ、オートバイ!
Nov
13
拝啓 オートバイ様
突然の手紙で失礼します。
オートバイ様、元気でやっていますか?
先週の木曜日、僕から急に「別れ」を告げられたとき、さぞかし驚かせてしまったことでしょう。あまりにも唐突で、きちんと説明が足りていなかったと想像しております。
特にこの5年間、あなたとはすれ違い続きだったと感じています。
以前はあんなに愛し合ったというのに……。いったい、どこでボタンの掛け違いが起こってしまったのでしょうか。
今回、今の僕の気持ちをお伝えしたくて、ペンを取った次第です。
まずは、あなたとの出会いから振り返らせてください。
もう25年も前になりますか。
当時の僕は、人間相手に「失恋」をした直後でどん底状態でした。そんなとき、そんな僕の様子を察してくれた友人からツーリングのお誘いをもらったのです。もちろん、僕には二輪免許がなく、友人の後ろに乗せてもらって、150キロ離れた「新潟競馬場」を目指しました。
タンデム・シートはお尻が痛くなり、体勢も前傾でバランスが悪く、徐々に腰も痛くなっていきました。
しかしです。体勢や体の痛みにも慣れてくると、ふと不思議な感覚を得たんですね。ありきたりな言葉だけど、そのとき「風」になれた気がしたのです。
フラれたことも、そのときばかりは忘れることができました。自分が運転しなくても自然と「同化」できるなんて、「何と素晴らしい世界なんだろう!」と深く感動しました。これでもし自分が運転したら、どうなってしまうのだろうってね。
恋愛でのワクワク感とはまた違った、何か新しいワクワク感がそこにはあったのです。「不自由さの中にこそ、本当の自由がある」のだと、あなたの魅力に気付かされた瞬間でした。
その経験から、僕はすぐに教習所に通うことになります。
何もしないと元カノのことを思い出してしまうので何かに没頭したかったのもあったけど、1日でも早くあの感覚を味わいたかった!
夕方、仕事を抜け出して、コツコツ運転を練習し、2ヵ月くらいで、ついにあなたと契を交わす権利を獲得!
傍から見れば、運転免許証の「二輪」にフラグが立っただけのこと。とはいえ、僕にはあの感覚をもう一度味わえる! しかも自分の運転で体験できるなんて、もう体がウズウズしっぱなしでした。
目指すは「福島競馬場」!
エンジン音が脳を刺激し、ハンドルの振動からは僕の魂を揺さぶっていく!
「これだよ、これ!」
教習所では味わうことができなかった、自由にどこにでも行ける喜び。何とも言えない解放感。しかも、僕とあなたの2人だけの世界。誰にも邪魔されず、2つの呼吸が1つに交わる感覚がそこにはありました。
僕たちの関係性が深まっていくと、移動距離がどんどん長くなってきましたね。新潟からフェリーで北海道に行き、日本の最北端まで走ったり、次の恋愛に悩んでいたときは、徹夜で牡鹿半島にまで向かったこともありました。
今では、どれも良い思い出ばかりです。
考えてみると、「恋愛」で苦しんでいたとき、いつも隣にはあなたがいてくれた気がします。何も語ることはなかったけど、そっとエンジン音で僕を慰めてくれました。今更ですが、本当にありがとう。
あなたとの時間が、僕を「勇気付け」してくれていたのですね。
その数年後、そんな僕も結婚をし、さらに子どもが産まれて父親になりました。
仕事や育児に全集中していくことで、次第にあなたと共に過ごす時間が無くなって、どんどんと疎遠になっていきました……。
それでも、子どもたちが小学生になった頃に、再度あなたと向き合いたくて、何度か同僚とツーリングに出かけてみたり、通勤の行き帰りで共有する時間をたくさん作ってみました。しかし、以前のようなあの感覚が戻ってくることは正直無かったのです。
別れの予感は、2年くらい前から感じていました。
僕があなたの「脚」を頼るよりも、自分の脚で走ることが楽しくなってしまっていたのがその理由です。
あなたの力を借りて「風」になるのではなく、スピードこそ違うけど、自分自身の体を使って「風」になる感覚。その新しい魅力に気づいてしまった。
自分の脚で、自分の力で前に進める喜び。正直に言うと、あなた無しでもやっていける変な自信を感じていたのです。
実は、文化の日の3日、もう一度、あなたとのデートを通して、これからもこの関係を続けていけるかどうかを試してしまいました。ごめんなさい。
しかし、あなたの反応は返ってこなかった……。僕の鼓動を揺さぶる、あのエンジン音が鳴ることはなかったのです。あなたに向き合わずに、ランニングばかりしていた僕が悪かったのです。
きっと、僕よりもあなたを大切にしてくれる方が待ってくれています。
あなたらしく、あなたが生きていく為に、あなたを必要としている人が必ずいると思っています。次はその人を「勇気付け」してあげてください。
何か勝手なことばかり言っているよね。本当にごめんね。
最後には、これだけは言えます。あなたと過ごした時間は、本当に、本当に、かけがえのない素晴らしい時間でした。あなたと一緒なら、どこにでも行ける気がしました。あなたがいてくれたからこそ、今の僕が存在していると思っています。本当にありがとう。心から感謝の気持ちで一杯です。
グッバイ、オートバイ!
バイバイ、バイク! また会おう!
敬具
Posted at 2022-11-14 02:47
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Posted at 2022-11-14 03:36
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