今年の読書(39)『ヒト夜の永い夢』柴田勝家(ハヤカワ文庫JA)
May
27
本書『ヒト夜の永い夢』は奇想天外、人を食った設定です。昭和2年、稀代の博物学者「南方熊楠」のもとへ超心理学者の「福来友吉」が訪れます。「福来」は明治43年のいわゆる「千里眼事件」で学会を追放された変わり者です。
「福来」の誘いで学者たちの秘密団体「昭和考幽学会」へ加わった「熊楠」は、新天皇即位の記念事業のため、思考する自動人形を作ることになります。
「熊楠」が研究する粘菌を使ったコンピューターを組み込んだ「少女」は、「天皇機関」と名付けられますが、「2・26事件」の混乱へとストーリーは展開していきます。
文中、孫文、江戸川乱歩、北一輝、宮沢賢治、石原莞爾などが登場、<柴田>さんはあるインタビューに答え、「宮沢賢治」と「南方熊楠」に交流があったという設定は、パズルのように時系列を検討して考えたといいます。
SFだからなんでもありと思われますが、昭和史と昭和の文化史を押さえた上のストーリーは「伝奇ロマン」風ですが、妙に説得力を持ってせまります。
俳優の故<西村晃>さんの父、生物学者、元・北海道帝国大学教授「西村真琴」も重要な役どころで登場します。「西村真琴」は「學天則」という機械仕掛けの人形を実際に開発し、昭和天皇即位を記念した大礼記念京都博覧会(1928(昭和3)年)、に展示したことでも知られています。終盤、「學天則」が思わぬ形で「天皇機関」と対峙します。
「天皇機関」となった少女が魅力的です。果たして何なのか? 人間なのか機械なのか、生きているのか死んでいるのか? 波乱の展開の中に静かで思弁的なテーマが内包されている全573ページでした。