私は図書館で本を読まない ただ印字さえたインクや 紙の匂いに興味がある この香ばしさから私の想像する 歴史や風景から物語を書く そのことを一度だけ 友人に話したことがあった 彼は本を読まないのは 勿体ない、と しかし、私のやめられない嗜好 本に鼻を近づけ匂いから想像する
ぼくはぬすまれて しまうのかな いつかぼくのこどもが ぬすまれるのかな おとなたちが ぼくのこどもを ぬすむって ひどいじゃない でもおとなは ぬすんでしまうんだ ぼくのおにいちゃん もうぬすまれているよ だってぼくを おまえこどもだな ていうんだから
釜から降りる子杓からは 龍の湯気が立つ 地上へ降りたる龍は 桐の花を食するように 茶碗の抹茶に絡んでゆく 三爪の龍は地をならし 天に昇り五爪の龍となり姿を消す 我々は茶の世界ごと口に含み 恵みある緑に一礼をする
なんとか立ち上がれた コルセットをぎゅぎゅと 今日は歩ける 行こうあそこへ 靴下が履けない なら、いらない 靴が履けない なら、サンダルで行こう よしもう少しだ 段差に気をつけて おお、ついた しかも50円引きだ ソフトクリーム バニラ、コーンで 帰りはこいつがあれば楽勝
何とか連休に滑り込んだが 案の定、腰が立たず寝たきり しかし不思議なものだ 足の痺れがずいぶんと軽くなっている もしかすると この腰の痛みが抜けてしまえば かなりいい感じになるだろう 疲れさえ抜ければたぶん 寝たきりならやはり詩を書こう しかし、これまた頸椎症と五十肩 詩を綴るデバイスが両手で持てない 肘で押さえて右指で打ち込む まあ慣れたもんだ まあ、ホーキング博士から見たら あなたはまだまだ恵まれた環境だ と、言われる気はするが キュ、キュ、キュ、キュ、キュ 平和な鳥の鳴き声がする そよそよと風が抜けてゆく ドスン、ドスン たまにトラックが通るけど 私が歩けなくても 世界はどんどん動いている 幸せは場所を選ばない こんな詩を綴りながら連休を過ごす 与えられた環境で楽しむように 私は今日も前向きだ
哲ちゃんはね 哲生っていうんだ ほんとはね 自分の開拓に明け暮れ 詩なんて書いて そんなもんが何になる そう言われることもあるけど 哲ちゃんはね 理由なんて関係ないのさ 僕という作品を 作りたいだけなのさ 哲ちゃんはね 哲生っていうんだ ほんとはね
決めちまえばいい 余計なことは考えるな 病室のベットで苦しい筈なのに 最後まで痛いの一言も言わなかった 戦中、戦後を生き抜いた父の口癖が 今、少し弱った俺にふと刺さってきた 決めていたんだ 父は耐え抜くと決めていたんだ 俺も決めてしまおう 俺は元気になる
二十代 やはり詩を書いていた 友人は俺のことを「天才」と言った そうか 俺の詩は知的財産だ しかし三十代 俺のこと「天才」と言ってくれたよな えっ お前はすげえ「天然」だなあ と言った記憶はあるけど それから 「天然」も褒め言葉と思い込み 詩を書き続けているのであった