今年の読書(32)『アスクレピオスの愛人』林真理子(新潮社文庫)
Mar
13
小説の舞台となるWHOの紋章は、国連旗の図案に蛇が絡みつく杖をあしらい、医療のシンボルとなっています。
本書の主人公48歳の<佐伯志保子>は、スイス・ジュネーブにあるWHO(世界保健機関)のメディカル・オフイサーとして、パンデミック予防のため感染症の前線で世界中を飛び回っています。
<志保子>には、美容整形外科の別れた夫<斉藤裕一>の元に19歳の娘<れおな>がおり、彼女も活躍する母の姿にあこがれ、私大の医学部に通っています。
そんな折、継母の<結花>は<裕一>の不倫を知り、43歳で妊娠したものの不妊治療で通っていた「白金ソフィア病院」で、出産を前に「羊水塞栓症」で母子ともなくなってしまいます。<裕一>は、病院長の<小原俊矢>を相手に医療裁判を起こしますが、<小原>は<志保子>の長年の愛人でした。
世界の保健医療に並々ならぬ情熱を燃やしながら、私生活では誰にはばかることなく男との関係を持ち続ける母<志保子>、医者が医者を訴えるという父<裕一>の行動を目の当たりにした娘<れおな>は、医者の世界に不信感を抱き医学部退学を考え始めます。
現状の医療現場を縦糸に、男と女、母親と娘等の人間関係を横糸に描いた、著者には珍しい医療分野の一作でした。