著者は「新官能派」のキャッチコピーでデビューした性愛文学の代表的作家ですが、人間の本能的な行為としての悲哀という描き方であり、淡々とした筆致は好みの文体で、「星々たち」・「ホテルロイヤル」などを読んできています。
本書は空が色をなくした冬の北海道・江別(著者が在住の街です)が舞台です。
主人公<柊令央>は、シェフ<志水剛>のビストロ「エドナ」勤務で得る数万円の月収と、元夫から振り込まれる慰謝料で細々と暮らしていました。いつか作家になりたい。そう思ってきたものの、夢に近づく日はこないまま、気づけば四十代に突入しています。
ある日、令央の前に一人の編集者<小川乙三>が現れます。「あなた今後、なにがしたいんですか」。責めるように問う<小川乙三>との出会いを機に、<令央>は母<ミオ>が墓場へと持っていったある秘密を書く決心をする。だがそれは、母親との暮らしを、そして他人任せだった自分のこれまでを直視する日々の始まりだった。
これは本当にフィクションなのか、著者の現実と虚構が交錯する構成に、最後まで楽しめた一冊でした。
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