今年の読書(63)『銀婚式』篠田節子(新潮文庫)
Dec
6
主人公「高澤修平」は、ニューヨークの東栄証券の現地法人で働いていたときに証券会社が破綻し、妻「由貴子」はニューヨーク暮らしに心身ともに対応できず、ある日息子を連れて突然帰国し、その後離婚。会社の残務整理を片付けて帰国してからは損保会社に転職します。ところがそれが代理店切りのリストラ担当職で心身ともに疲労困憊。「鬱」と診断され、そこも辞めて3度目の職は仙台にある新設大学の金融論担当の講師に就職。もっともその大学も学閥争いや、講義以外の雑務、質の悪い学生対応で安住の地ではなく、「高澤」はずっと振りまわされるますが、ひとりの若い学部長の秘書「鷹左右恵美」に心ときめかせ、再婚を考えるのですが、息子「翔」の浪人問題等で立ち消えてしまいます。
そういう仕事の日常がひたすらリアルに語られていきます。責任感ある普通のビジネスマンが「男の本文は仕事だ」の信念の元、バブル崩壊後の現実を<高澤>がどう生きていったのかが詳細に描かれていきます。
タイトルの「銀婚式」は、普通に言えば、結婚25周年の記念日だけに、夫婦の絆や人生が描かれているのかと思わせますが、物語の初めに主人公は離婚していますので、読者は物語の展開に戸惑いを憶えながら読み進めることになります。
日常の仕事の日々だけではなく、息子が成長していくと、受験の問題が出てくる。妻とは離婚したとはいえ、「高澤」が父親であることに変わりはなく、その都度相談に応じなければならない。認知症の義母の介護も、その家に息子が一緒に暮らしているかぎり息子と無縁ではないないから、それも重要な問題だす。つまり、ここにあるのは私たちの生活そのものです。私たちの人生の現実です。だから、この物語にどんどん引き込まれていきます。
文中に「銀婚式」という言葉が2回出てきますが、著者らしい場面での登場に、「にやり」とさせられ、タイトルの意味合いに納得させられました。