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- 今年の読書(33)『嵯峨野花譜』葉室麟(文春文庫)
「植物記」 や <生け花> をシリーズ化してきている者として、何とも気になるタイトルの『嵯峨野花譜』(2020年4月10日・文庫本刊)でした。単行本としては、著者の亡くなる(2017年12月23日)年の2017年7月に刊行されています。
江戸後期の文政年間、大覚寺の花務職に任じられた華道未生流二代「不濁斎広甫」のもとで、修行を積む16歳の少年僧「胤舜」を主人公に据えています。
「広甫」より、「人の心を見る修行」を諭され、様々な依頼で花を活けつつ、花の名手になっていくその成長とともに明らかになる出自の過酷さ。母「萩尾」との別れや祖母とのわずかな邂逅、やがては自分を捨てた父「水野忠邦」とも対面し、人生の過酷な運命の中で、純粋な気持ちを崩すことなく花と取り組む姿が、とても清々しい気分にさせてくれる物語でした。
嵯峨野大覚寺、祇王寺、大原野の西行桜の勝持寺、知恩院・妙蓮寺などを舞台として、著者の花にちなんだ和歌、歴史や能の知識を背景に、著者が晩年歩いた京の街と、その古典の知識がふんだんに盛り込まれ、生け花の神髄としての「心の花」としての「和」の余韻に浸れる一冊でした。
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