今年の読書(72)『月夜の羊』吉永南央(文春文庫)
Nov
23
コーヒー豆と和食器の店「小蔵屋」を営む「杉浦草」は、秋のある日、道端で「たすけて」と書かれたメモを拾います。
折しも紅雲町では14歳の女子中学生「渡辺聖」が行方不明中でした。メモと関連づけ、誘拐・監禁を視野に警察も動き出しますが、直後に少女は、離婚した東京の父親の所に家出とわかり、無関係なメモの件はそのままになってしまいますが、「お草」は気がかりでした。
腑に落ちない探求心旺盛な「お草さん」は周辺をあたり、鍵のささった玄関が気になり、開けてみますと独居の老女が自宅玄関で倒れているのを発見、救助します。ところが数日後、郵便物の整理で留守のはずの老女宅に入ると住宅内に人の気配を感じます。
紅雲中学校の校則問題や引きこもりの息子の問題、従業員の「久美子」と母親との問題、親の介護や「8050問題」に悩む人びとに、「お草さん」の甘いだけではなく厳しさも伴う行動が、5章の連作短編で繰り広げられていきます。
紅雲町の季節の流れを背景に、町内会の出来事にほっこりさせてくれる「お草さん」は本書でも健在でした。