今年の読書(77)『僕が死んだあの森』 ピエール・ルメートル(文春文庫)
Dec
2
〈1999年〉 母とともに小さな村に暮らす12歳の少年「アントワーヌ」は、サントゥスタッシュの森で、自作した秘密基地(ツリーハウス)の下で興味を示さない隣家の6歳の男の子「レミ」を、誤って殺してしまいます。殺すつもりはなく、いつも一緒に遊んでいた犬が死んでしまったことと、心の中に積み重なってきた孤独と失望とが、一瞬の激情となって木の枝で殴っただけでしたが、幼い子供は死んでしまいます。
死体を森の中のブナの木の穴に隠して家に戻った「アントワーヌ」は、その途中で大事なダイバーズウォッチを無くしているのに気づきます。子供の失踪に村は揺れ、警察もメディアも村にやってきます。母の薬を大量に摂取して「アントワーヌ」は自殺を図りますが、「デュラフォア医師」の往診で、食中毒とされ殺人の件を悟られた感がぬぐえない「アントワーヌ」でした。
〈2011年〉 事件後のクリスマスイブの夜、村は暴風雨に合い、村は洪水となり、捜査も中断されてしまいます。「アントワーヌ」は村を出て医学生となりますが、ブナの木がある森の再開発計画が持ち上がり、子供の白骨死体が発見されてしまいます。
〈2015年〉 母の交通事故で村に戻った「アントワーヌ」は、子供の頃の憧れの「エミリー」と一線を越えてしまい、その後「エミリー」の妊娠がわかり、結婚して医師として村に住み着くことになります。その際「デュラフォア医師」の診療所と営業権を買い取りますが、「デュラフォア医師」から母の人生の裏面を聞かされ、驚く「アントワーヌ」でしたが、殺人事件は迷宮入りになりそうな流れで物語は終わります。
殺人現場で落としたダイバーズウォッチ紛失の件が、その後文中に出てこず、腕にしていないのに母からの指摘もないのが不思議でしたが、後半で集大成的に物語を締めくくる構成は、先読み不可能で、細やかな筆致で「アントワーヌ」心の変化を描く犯罪文学の傑作で、最後の2行には、あまり芋見事な結末の文章で唸ってしまいました。