朝十時 陽はとても柔らかく 冷たい匂いが 僕の中に入ってくる 平日の汚れた 気持ちを洗うように 澄んでゆくこころ 家族も詩も自分も 遠く離れ空に吸い込まれ 生きている身体だけが ここに突っ立って 複雑がぼろぼろと 落ちてしまえば あとはもう消える夢 何もない時間 何もない世界へ
空になった缶コーヒー すぐに温もりを消し 握っていると 冷たさが未練を切る 冬は厳しい 寒さに痛みが伴い 残された温もりにも 容赦などない 風を引き連れて電車 前髪が揺れれば 足元のおもてなしが 待っていた 肩を落とし 身を委ね次へ向かう
街で女性とすれ違った時 ほのかに香る記憶の匂いを 嗅ぐことがある 顔も覚えていない 声も覚えていない わかっているのは私が幼稚園児の時 毎日のように感じでいただろう いい匂いってことだけ 先生を好きなイメージが この匂いと結びつき心地よくなる 何という香水なのかも知らない 知らない方がいいのかもしれない 好きな女性に使って欲しくなり わがままを言いそうだから そんなことを言う男にもなりたくない しかしこの先 何処かで自分と関わる女性が この香水をつけていたとしたら 香りの記憶と誘惑に手招きされ それだけで溺れてしまうかもしれない
僕はくねくね道が とっても好きなんだ えっ 捻くれものだって そんなことはないよ だって僕の心はいつも 真っ直ぐな一本道なんだ だから なおさらくねくね道に 迷ってみたいと思うのさ 僕って やっぱり変かな いいのいいの 揺るぎない真っ直ぐが 僕にはあるんだから 余裕でくねくね道で遊ぶんだ だってだって 僕にないものをくねくね道で 拾ったりできるからね
右手と比べると細くなった左手 左手をグーパーグーパーする 予想していた以上に早く 動かなくなってゆく左手 痺れにさすり刺激を与え 悔むより今までありがとうと もう受け入れている そして障害が続いていけば 僕にとって障害が障害でなくなる 真っ直ぐ流れた水を止めようとしても 横に逸れながらまた流れていく 僕もそうやって流れてゆこう
詩を書くひとには 「わたしは詩を書くの」 というひと 詩を書いていることを 隠すひとがいる 自分は積極的な前者 先日 「〇〇さんは詩とか書かないの?」 と躊躇なく訊く 「ああ、自己満足のやつね」 と返ってくる 「満足するっていいね」 と微笑んだ
目標を立てると わりと頑張ってしまうタイプ 詩を書くことでの目標はないが スマホゲームのパズドラにはあった ランキンダンジョンという企画で ランキングで自分が全体の 1パーセント未満に入ることだ もう学生の柔軟な頭には パズル力で敵うわけはないが オジサンの今まで生きてきた どうしようもない知恵と 3000円の課金とで勝負に出た 厳しかった 戦いは厳しかった 勝てない相手がいるという ゲームなのにそんな現実がある どうしても勝てない相手には 望んで負ける 勝てそうな相手には 全力でコンボを重ねて倒していく そして環境や敵の情報を探り ジリジリといやらしいオジサン力を発揮 念願叶い全体の0.7パーセントに入る そして王冠を手にした だからなんだって話だか ただ自慢したかったんだよオジサンは