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  • 【Day311】季節のようにカレーの辛さは移りゆく

【Day311】季節のようにカレーの辛さは移りゆく

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【Day311】季節のようにカ...
「あれ? カレーの味、変わった?」
私は食卓に出されたカレーを一口食べたら、いつもの感覚との違いに気付き、妻に聞いてみた。2021年夏の夕食でのこと。

「そうよ。今日から中辛にしたの。子どもたちからのリクエスト!」
なるほど! 彼ら(双子の男)も来年には中学生になるんだよな。きっと、辛いカレーを食べることが「大人の証」と思っているに違いない。一瞬でそのことを察した私は、次のように答えた。

「そうか、そうか。ついに中辛デビューか。お父さん、感激!」
カレーといえば最初に連想する芸能人、西城秀樹さんのモノマネを転用してみたが、食卓はホットなカレーとは対照的に、少し冷たい風が吹き付けたようだった。そんな空気を無視して、私はカレーを食べることに集中している演技をしてみせた。子どもたちは西條秀樹さんの存在は知らないので罪はない。妻からの冷たい視線が冷風の発生源であることは言うまでもなかった。

空気が戻ってから、子どもたちの様子を伺ってみた。慣れないカレーの辛さからくるものなのか、2人とも汗をかきながら、どこか無理をして食べているようにも見えた。どう見ても外見は「子ども」のままなのに、心は「大人でありたい!」と背伸びをしている姿から、ああ、しっかり「成長」しているんだなという喜びを感じた。

さらに、残りのカレーを食べながら、私は回想していた。

「たまには辛いカレーが食べたいんだよなぁ~」、「もう甘いカレーライスにも飽きてきたよ」などと、先日、妻に漏らしていたところだった。
とはいえ、甘いカレーが大好きな子どもたち。そうは言っても、生活の中心にあるのは、もちろん子どもたちである。甘口カレーを食べる日々は、もうしばらく続くことは覚悟していた。

カレーの辛さと同じように、子どもたちは、ずっと私に甘えてきてくれた。「一緒に遊ぼう!」「どこかに行こう!」とよく言われたものだ。
そんな彼らの期待に応えるあまり、私も随分と過剰なサービスをしてしまった反省もある。子どもが可愛いばかりに、彼らが1人でできることも、手を貸してしまったことは数知れず。将来のことを考えれば、自発的に彼らが自分で考えて行動する機会を奪ってしまっていたのかもしれない。私自身が「甘々」だったのだ。

カレーの辛さが変わった瞬間、少しずつ彼らが親から卒業していく姿が、脳裏をちらついた。過剰なサービスをしたくてもできないし、自分が彼らとの直接的な関わりの中で、「余計な手助けをしてしまった」などと反省する機会も無くなっていくのだと……。

しかしである。自分自身を振り返ってみても、まったく同じ歩みをたどってきたのではなかったか。中学生にもなると、親と出かけることが恥ずかしくなり、年々と会話をする機会も減っていったことを想い出した。親との時間は、そのまま友だちと共有する時間になり、趣味の時間に使われるようになっていった。
グレたことは無かったが、時には母に乱暴な言葉遣いをしたことで、悲しい顔をさせてしまった。あの頃の母の表情は忘れずに、今でも脳裏に残っている。
父も母も、私が今まさに感じている「寂しさ」を通って、一生懸命に働き、学費を払ってくれて、どんなときも私を見守っていてくれていたんだと思うと、胸が締め付けられてくる。

命のバトンのリレー。受け継がれた親子の数だけ、子どもが大人に変わる場面で、すべての親が寂しさを感じ、子どもたちは巣立っていくのだ。

カレーの辛さは、あっという間に「辛口」に変わっていくだろう。
同じ食卓で食べることができれば幸せなことであるが、その頃には、家族団らんの時間も取れなくなってしまうかもしれない。取れたとしても、親子の会話は徐々に無くなっていくのだろう。たまの会話も、辛口な言葉しか言われなくなる可能性もある。

「甘口」から始まり、「中辛」になり、「辛口」になっていく。そして、彼らも親になる日が来て、子宝に恵まれるとしたら、また「甘口」に戻っていくのだろう。まるで、日本の「季節」のように移りゆく。

人は成長していくのだ。いつまでも今の関係性が永遠であることはない。
そのとき、一瞬一瞬の状況を感じながら、味わうべきなのだ。

その人生の季節に応じたカレーの辛さを楽しもう。
自分の大好きな好みの味は、子どもたちが巣立っていってからでも十分楽しめる。今しか食べることができないその辛さを噛み締めて味わいたい。

辛口好きであっても、私は「調味料」で辛くすることは決してしない。彼らの成長を味わっていたいのだ。定期的に食卓に出てくるカレーを指標にして、息子の成長を楽しむのも悪くはない。
#ライティングゼミ

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