【Day340】稲盛さんと倍速再生と私
Oct
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「京セラを一代で世界的な企業に成長させ、経営破綻した日本航空の会長として再建に尽力した京セラの稲盛和夫名誉会長が今月24日京都市内の自宅で老衰のため亡くなりました。90歳でした。」
8月30日の夜のこと。スマートフォンのニュース・アプリから、経営の神様、稲盛和夫さんの訃報を知る。窓の外の夜が、いつもより「黒」が強めに思えた……。
稲盛さんといえば、私にとって「音声学習」を定着させてくれた恩人なのである。稲盛さんがいなければ、私が今日まで勉強を継続することはできなかっただろう。さらに「音声」にこだわった学習を継続させることは無かったはずだ。
稲盛さんと音声学習の関係とはいったい何か?
その出会いのきっかけは、2003年秋までさかのぼる。
私の20代は、まったく勉強せずに、実に怠惰な生活を繰り返していた。毎日のように飲み歩き、自己投資と呼べることは皆無。「その場、その日が楽しければオッケー!」という感覚で、お金は飲み代やギャンブルに消えていった。
そんな堕落した生活から立ち直るきっかけとなったのが30歳のとき。そう、2003年11月、職場から2泊3日の合宿研修に強制的に参加させられたのだ。
そこでは、軍隊のような生活が待っていた。
5時に起こされ、本気のラジオ体操から朝が始まる。漢字の書き取り、計算問題などを何度も反復練習した後、参加者同士でディスカッションの時間。夜は決められたテーマについて作文を書くことになり、ほとんど寝る時間も無かったはずだ。
隣の仲間は、堂々と自分の意見を発言していて、自分の不甲斐なさを思い知る。このときである。「俺はいったい今まで何をして来たのだろう!」と思ったのは……。目からは熱いものがこみ上げてくるほど、後悔の念に苛まれた。
研修が終わると、3ヵ月間の課題提出。
その課題の中には、毎月3冊の「読書感想文」が含まれていた。
読書といえば、漫画ばかりだった私にとって、課題図書リストにある本は、初めて目にするタイトルばかり。当然である。
しかし、私は読書に夢中になった。脳内が空洞だったことで、知識が吸収されやすかったのだろう。
松下幸之助氏、本田宗一郎氏のエピソードに胸が熱くなり、司馬遼太郎の歴史小説では、新選組副長の「土方歳三」のサムライ魂に心が踊った。
考え方や歴史の奥深さを知れば知るほど、読書を楽しむようになっていた。
そんな三十路の男が目を輝かせて昼休みに読書を楽しんでいるところに、当時の部長が1冊の本を私の目の前に置いたのである。
その本が中村天風氏の『成功の実現』。
なんと1万円もする本。私に貸してくれるという(恐縮です!)。
そこには生きる上での心構えが直球で書かれていた。
心をいかに積極的にして、人生を明るく前向きに生きていくための教えがそこにはあった。「絶対積極」という言葉が強く脳裏に刻まれた。
天風哲学に触れた私は、次に衝撃の事実を知る。
中村天風の思想や活動に影響を受けた人物に、東郷平八郎、原敬、双葉山、広岡達朗、松下幸之助、稲盛和夫などがいるという記事を目撃したのだ。
そこではじめて稲盛和夫さんの存在を知ったのである。
時を同じくして、Febe(現:オーディオブック)という音声メディアが世間に登場していた。車社会のアメリカでは、すでにその何年も前から車の中で「音声学習」する文化が醸成されていたようで、ようやく日本にも、「音声」に着目したスタートアップ企業が立ち上がったところだった。
当時の私は、徒歩通勤していたこともあり、歩きながら読書をする方法を模索していた。まさにFebeとの出会いも運命の出会いだったといえよう。
そのFebeではじめて購入した「音声ブック」が、忘れもしない、稲盛和夫さんの『生き方(倍速版)』であった。
当時は、倍速再生機能などなく、通常速度で聴ける「通常版」と2倍速で聴ける「倍速版」の2種類が販売されていた。
私は、稲盛さんの『生き方』を何度も何度も、歩きながら聴いた。
倍速版なので、通常版1回分の時間で、2回聴けるというわけだ。
あの合宿研修で、自分の意見を言えない「負け犬」の自分には戻りたくない、早く一人前になりたいという思いしかなかった。
その自分軸となりそうな考え方が、中村天風さんの本、そして稲盛さんの音声の中にある気がしていた。無我夢中に貪り続けたのだ。
昨今、Z世代の若い世代では、倍速で動画や映画を観る機会が増えているらしい。それに対して、賛否両論あるらしいが、私はどんどん倍速で観て、聴いて、たくさんの作品に触れればいいと思っている。
これだけ世の中にはたくさんコンテンツで溢れているのだから、まずは本物にたどり着くためにも倍速機能は欠かせない。
自分の教科書となる音声、オーディオブック、動画こそ、倍速で何度も何度も観て聴いて、自分の中にインストールしてしまうといい。
「守破離」の教えの中で、一番大切なのは、徹底的に「守」を貫くことだと思っている。中途半端なオリジナルなんて不要なのだ。
『生き方』という倍速版の音声から学んだこと。人間として何が正しいかを基軸にして、原理原則を大事にし、徹底的に思い、世のため人のために利他の心で動き続ける。私にとって、稲盛哲学は今の仕事の仕方の基盤になっている。
さらに、はじめての音声学習をした本が『生き方』だったことで、音声学習に対して良い印象を持てた。だからこそ、あれから15年以上も「音声学習」を続けることができている。間違いない。断言する。
人の死には2種類あるらしい。1つは肉体の死。もうひとつは、生き残った人の記憶からいなくなってしまうこと。稲盛さんは100年後も、300年後も生き続けていくに違いない。私の中には、最後まで稲盛さんは生き続ける。
稲盛和夫さん、お会いしたことはございませんが、今までありがとうございます。心より深く感謝を捧げると共に、謹んでご冥福をお祈り申し上げます。