今年の読書(109)『いさご波』安住洋子(新潮文庫)
Sep
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どの短篇も、武家社会の時代の武士としての生き方の悲しみが満ち溢れて、しっとりとした文体で坦々と綴られていますが、悲壮感はあまり感じませんでした。
お家断絶で、赤穂藩士から市井の浪人として仇打ちに加わらなかった父を持つ藤野幸右衛門。
後継者を巡ってお家が分裂した九鬼家や、藩の体面で、偽りの理由で江戸まで出向く下級藩士たちの悩みと生きざまが、それぞれの主人公を通して見事に描かれています。
「・・・波」とタイトルが使われていますが、水軍の覇者としての九鬼家は山奥の三田に配置換えされ、赤穂藩を含め「海」の印象が付いて回り、カエデ・ツツジ・サクラなどの四季の変化が描かれ、自然の中の人間の迷いや悩みなどは小さな出来事だと、対比的に知らしめてくれています。