今年の読書(66)『悪寒』伊岡瞬(集英社文庫)
Aug
31
東京本社の大手製薬会社に勤めていた「藤井賢一」は、上司が起こした政治家へのリベート問題で責任を取らされる形で、系列の山形県酒田市にある置き薬販売店の支店に飛ばされてしまいます。
いずれ上司の言葉通り本社に戻れることを夢見て、置き薬の販売に励んでいますが、成績はあがらず、支店長に叱責される日々が続いていました。
そんなおり、東京で娘「香純」と暮らす妻の「倫子」から、不可解なメールが届き、その後、「倫子」が本社の常務を「藤井」の自宅マンションで殺害したという警察からの連絡を受けます。
自分が単身赴任中に、妻がどうして本社の常務とかかわったのかわからないまま、認知症の母「智代」や不登校の娘「香純」の心配も重なり、「賢一」の苦悩は高まるばかりでした。
二転三転する殺人事件の真相究明に、読者をサラリーマンとしての男の弱さを感じさせる主人公「賢一」の心情に沿わせながら、著者の世界に引きずり込まれた疲労感と共に、安堵感の広がる結末にミステリーの醍醐味の余韻に浸れる一冊でした。