今回の『不審者』は読み切るのに苦労しました。著者が<伊岡瞬>でなければ、途中で読むのを放棄したかもしれません。
フリーで小説の校正・校閲をしている妻「折尾里佳子」と食品会社に勤める夫「秀嗣」と6歳の息子「洸太」、認知症が出始めた姑「治子」の4人の家庭の描写が続き、いつか大きな事件が起こるだろうと思いながらも、盛り上がりに欠ける日常的な描写の冗長的な展開に読み進むのが大変でした。
読みながら、「この引っ張り方は、新聞連載小説的だな」と感じたのですが、初出はやはり『青春と読書』誌に2018年7月~2019年6月に掲載され、2019年9月に単行本が刊行され、2021年9月25日に文庫本として発売されています。
家族4人で平穏に暮らす「里佳子」の前に、20年以上音信不通でした「秀嗣」の兄「優平」だと名乗る男が現れます。しかし姑は「息子はこんな顔じゃない」と主張。不信感を抱く「里佳子」でしたが、「優平」は居候することになります。その日から、毛虫が寝具に紛れ込んでいたり、車が動かされていたり、校正の原稿が紛失、引き出しの五千円がなくなっているなど、不可解な出来事が続きます。「優平」は誰で目的は何なのか。一つの悲劇をきっかけに、暴かれる家族の秘密と、「ふ~ん」という結末が待っていました。
文中に登場してきます「里佳子」の校正者としての仕事内容が理解できたことは勉強になりましたが、その作業する小説の文章と本文の事件が同一のように感じさせる並列的な描写は伏線として楽しめたのが救いでした。
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