今年の読書(12)『蝶のゆくへ』葉室麟(集英社文庫)
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2017年(平成29年)12月23日66歳で没後、江戸時代から明治へと時代が変わる世相を描いた『約束』の原稿が見つかり刊行されていますが、本書も明治から大正期を背景とし、著者の没後の2018年8月に刊行、2021年6月25日に文庫本として発売されています。
旧仙台藩士の三女として生まれた「星りょう」(後の相馬黒光)。その利発さから「アンビシャスガール」と呼ばれた「りょう」は、自分らしく生きたい、何事かをなしたいと願い、18歳で上京、明治28年に東京の明治女学校へ入学します。女子教育向上を掲げる校長の「巌本善治」は「蝶として飛び立つあなた方を見守るのがわたしの役目」と、「りょう」に語りかけます。
明治女学校の生徒「斎藤冬子」と教師「北村透谷」の間に生まれた悲しい恋物語。夫「国木田独歩」のもとから逃げた「りょう」の従妹「佐々城信子」が辿った道のり。義父の「勝海舟」との間に男女の関係を越えた深い愛と信頼を交わした英語教師の「クララ・ホイットニー」。校長「巌本」の妻であり、病を抱えながらも翻訳家・作家として活躍した「若松賤子」。「賤子」に憧れ、その病床へ見舞いに訪れた「樋口一葉」。
「りょう」が若き日に出会った、新しい生き方を生きようとするそれぞれの明治の女性たちの生きざまを通して、その希望と挫折、喜びと葛藤が胸に迫る、明治文学史ともいえる登場人物たちが躍動する歴史長編です。
最後は「りょう」自らの女性としての生き方の運命の結実を描き切っています。