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- 今年の読書(147)『老猿』藤田宜永(講談社文庫)
語り手は59歳の<中里太郎>、結婚30年にして妻以外の女性と関係を持ち離婚、勤務先のホテルは買収されてリストラに合い、父親が残した軽井沢の別荘に一人移り住みます。
隣家には<高村光雲>の彫刻『老猿』を彷彿させる老人<岩熊>が住み、向かいには不動産会社を経営する男の愛人<孫春恋(スン・チェンリン)>が住んでいましたが、お互い交流もなく、静かな日々を過ごしていた<中里>でした。
ある夜、社長の妻が突然現れ、向かいの家から<春恋>が逃げてきて、一晩泊めるところから物語は大きく展開していきます。
なぜか中国人を嫌う<老猿(岩熊)>、<中里>の家に居候を決め込む<春恋>の不審な行動、やがて男女の関係に陥る<中里>と<春恋>、物語は壮大な叙事詩を醸し出しながら三人の運命を非日常的な世界に引き込んでいきます。
パリにて小説家を目指していた<老猿>が、「建築家が居心地の悪い家を作り、それを施主に売り渡す。施主はこんな家を建てやがって、と建築家に腹を立てる。しかし、居心地が悪いのに、施主はなぜか、その家から離れられない。そんな小説が私の理想なんだ」との言葉が、建築設計を生業とするわたしの心に響き、また老いてゆく人生の機微を考えさせられる一冊でした。
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