今年の読書(58)『サラバ !(上・中・下)』西加奈子(小学館)
Nov
24
父親の転勤先のイランで生まれ、大阪で幼少期を過ごし、エジプトの小学校に入った主人公の圷歩(あくつあゆむ)には、少々変わった性癖の姉がいた。自分のこと以上に熱心に姉のことを語る歩もまた変わった少年かもしれない。イラン生まれ、大阪堺市育ちの著者の経歴が随所に影響を与えていることは言うまでもありません。
「サラバ」とは、エジプト人の友人ヤコブとのマジックワードのような言葉だった。「さようなら」だけでなく、「明日も会おう」「俺たちはひとつだ」という意味をこめた二人だけの合言葉でした。
父の赴任が終わり、一家は大阪に戻る。父母の軋轢、姉の奇行を眺めながら、歩は成長し、東京の大学に進み、やがて趣味の音楽を生かしたライター稼業に入る。一方、姉はアンダーグラウンドな世界でカリスマ的な「アーチスト」となっていた。歩は有名人とのインタビューをこなす売れっ子ライターとして活躍していたが、ある外形的な変化から生活が一変する。
あらすじを追うだけでは、本書の面白さは伝わりません。登場人物の変化についていくだけでも大変です。最後に歩はふたたびエジプトへと旅立つ。そして一つの確信へとたどりつきます。
主人公の37歳までの自叙伝の形を取りながら、ある家族の崩壊と再生の物語としても読むことが出来ます。そして何よりも著者<西加奈子>が、『あおい』でデビューして作家生活10年目にしての記念碑的長編作品です。
Posted at 2017-11-24 16:05
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Posted at 2017-11-24 23:57
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