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- 今年の読書(91)『初夏の訪問者』吉永南央(文春文庫)
文春文庫「紅雲町珈琲屋このみ」シリーズとして第1巻『萩を揺らす雨』(2011年4月)に始まり本書『初夏の訪問者』で8巻目となりました。紅雲町で和食器の販売とコーヒー豆を扱う喫茶店「小蔵屋」を舞台に主人公「杉浦草」の生きざまが描かれています。
梅雨前の5月。「お草」が営む「小蔵屋」の近所の「もり寿司」は、味が落ちたうえ新興宗教や自己啓発セミナーと組んでの商売を始め、近頃評判が悪く、店舗一体型のマンションも空室が目立ち、経営する「森」夫妻は妻「好子」が妊娠中にもかかわらず不仲のようです。その様子を見て、「お草」は自らの短かった「村岡透善」との結婚生活を思い出したりしています。
そんな折、紅雲町に50歳過ぎの男が現れます。新規事業の調査のためといって森マンションに短期で入居している男は親切で、街中で評判になっていました。
その男が、「お草」のもとにやってきます。店の売却・譲渡を求められるのかと思った「お草」に対し、男は自分は「あなたの子供の良一」だ、と名乗ります。
「良一」とは、「お草」が夫や婚家との折り合いが悪く、「お草」が一人で家を出た後、3歳で水の事故で亡くなっています。だがその男によると、じつは「良一」は助け出されたものの、父と後妻の間に子供が生まれて居場所がなくなり、女中で乳母だった「キク」の子として育てられたといいます。その証拠として、お草と別れた夫との間で交わされた手紙や思い出の品を取り出して見せるのでした。
男の言うことは本当なのか、本当に我が子なのか。お草の心は乱れますが、商店街の元警官の私立探偵に「キク」の調査を依頼、「お草」は、嫁ぎ先の米沢まで「キク」に会いに出かけ真相を確かめに出向きます。
今回も、紅雲町のほのぼのとした人間関係を下地に物語はほろ苦くも終わります。おなじみの登場人物たちのはなしも加わり、「お草」の過去が重要な意味合いを持つ本書ですので、ぜひ初めから読んでいただきたいシリーズです。
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