今夜<18:30(21:00)>より「BSテレ東」にて、1976年12月25日より全国で公開されました『男はつらいよ』シリーズ第18作目として死と離別の悲しみを慎ましやかに描いた名作『寅次郎純情詩集』の放送があります。
『男はつらいよ』シリーズで唯一マドンナが亡くなってしまう悲劇的作品で、<山田洋次>の演出力が見事です。マドンナ「綾」(京マチ子)は、かつて隆盛をほこった一族の令嬢。破産寸前の一族のために望まない結婚を強いられ、あげく晩年には不治の病に冒されるという悲運の女性を演じています。
「綾」が余命幾ばくもないことを知るのは、マドンナの娘「雅子」(檀ふみ)とさくらの二人のみ。「寅次郎」はもちろん、本人ですら明示的にはそのことを知らない。とらやでの団欒シーンに顕著だが、マドンナの命の限りを知る者と、何も知らず無邪気に振る舞う者たちの対比により、今を生きることの尊さを鮮やかに描き出し、薄幸なマドンナに捧げられる、寅さんの涙を誘う奮闘努力の脚本・演出は見事としかいいようがありません。
死期を悟ったマドンナの「人はなぜ死ぬの?」という根源的な問いかけには、全身全霊をかけた道化を演じ、「綾」に最後の安らぎと笑顔をもたらす。やがて「綾」を喪ったあと、いつかみんなで語り合った「綾が元気になったらどんなお店を開くのがいいか?」という夢のつづきを、ひとり考え続けていたことを告白するシーンは実に涙を誘います。「さくら」の涙ぐむ表情と、冬の長い陽につつまれた青空が印象的なこのシーンは息を呑むほどに美しく心に残る作品です。
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