疲れた 辛い 綴ってみれば 遠ざかるどころか近づいて 光がこんなにも わざとらしく感じては 曇ってしまうばかり 倒れそうな風の中で 僕は僕を忘れたくて仕方ない でも なくなってしまえと思えば思うほど 輪郭は深く掘られていく 僕というカタチから 逃げようとすればするほど 追いかけて来る 逃げようとすればするほど 惨めになるばかり 逃げようとすればするほど……
自分が思っているほど ひとは僕のことは思っていない みんな自分のことで忙しいから そして 僕は君のことばかり考えている 僕にとって 都合のよい君 都合のわるい君 けっきょく想像の君に胸がチクチク それなら話しかけてみよう 嫌われたっていいじゃないか それが君の感じる僕なのだから 僕にとって君は自由であって欲しいから 始まらなくては終わりもしない さあ 勇気をだして聞いてみよう 僕は君のことが好きで もっと仲よくなりたいと思っているけど 君は僕のことをどう思っている?
一歩一歩を味わいながら 進んで行こう言葉の旅 三千ページ先まで道は続く 前回に一周した時は若かった 第五版時代 つめかけのない辞典 睡眠を促す言葉にパンっと 辞典が息を吐き出し閉じる 目が覚めれば どこを旅していたのか 歩いてきただろう道を ペラペラとめくり現在地を探る 旅は不便がつきものだった 先を急ごう この調子だといつ旅が終わるか分からない だけど さほど進まないのがこの旅の特徴 あ行 「愛」 親兄弟のいつくしみ合う心。広く、人間や生物への思いやり。 「淫乱」 みだらな行いをほしいままにし性的に乱れていること。 おいおい ここは長居してはいけない 帰ってこれなくなってしまう か行 「我執(がしゅう)」 自分だけの小さい考えにとらわれて離れないこと さ行 「3K」 きつい、汚い、危険な仕事。 5Sって言葉もあるよな 整理、整頓、清掃、清潔、躾 どっちも息苦しい感じだな 「残夢(ざんむ)」 目ざめてもなお残る夢心地。 いい夢だと幸せだな た行 「闘詩(とうし)」 詩を作って互いにその優劣を争うこと。詩合(しあわせ)。 こんな言葉があったのか 詩で負けたらそれこそいい詩が書けそうだ 語彙というガイドは様々な景色を見せてくれる 初めて会う者たちとのコミュニケーション 素晴らしい体験ばかりだった しかし この旅は一年を越えると 特急列車の車窓から 通過する駅名が分からないような 味気ない旅を続けていた 途中下車のぶらり旅もせずに 歩くことも忘れて 二年が経ち やっとこの旅は終わった 思わず「ん」と大きな息を吐き出した それから二十年くらい経っただろうか また無性に言葉の旅に出たくなった 第六版 今度はアプリというチケットを購入 いつでもどこでも旅が続けられ ブックマーク(栞をつけて好きな言葉を集めたファイル保管) カラーの景色 音声ガイド 動画での案内付きだ ああ 快適な旅 それに 歳を重ねたからだろうか 言葉が自然に染み込んで行く ただ 老眼が眼鏡を外させPadを近づける なんとも霞んだ景色が気になるが 最高の旅になりそうだ そして この旅を終えたら 日本を越えて世界へ出よう まずはオックスフォード辞典の旅だ “ time ” という概念だけで何十ページもあるらしい 日本の十九倍(I〜XX) そんな壮大な景色が見られるらしい とても楽しみだ いやいや 英語は This is a pen ! 初級レベルだったのを忘れていた やはり国内を満喫しよう 言葉の旅はまだ始まったばかりだ
まるいテーブル 雲をのせたカフェ・ラテ 窓の向こうはスーツがながれ ごめんなさいを楽しむ ゆったりとその雲は落ちてゆく カウンターの向こうでは食器がはずみ ジャズの音色が沁みてきて ネクタイをカバンに詰め込み いつもとちがう雲を 飲み干さないように 僕はこの時を止めてみた
ぼくは 変だ 遊ぶやくそくは 覚えているが 学校の宿題は 十分くらいで わすれてしまう ぼくは 変だ 遊ぶ持ち物は 覚えているが 学校の持ち物は 五分くらいで わすれてしまう ぼくは 変だ 連絡帳に書いたものも 一分ぐらいで わすれてしまう ぼくは へんだ だから 学校を勉強するところと わすれないようにしよう
何故にそんなに紅い秋 雲も、家並みも、人々も 染まりたいから 染まっている おなかの中にいた頃の 母親に包まれているように 紅く染っては…… やさしい紅よ やわらかな気持ちになり やさしい紅よ むかし、むかしを語り始め やさしい紅よ ほんとうの僕を思い出させて
小さな風をおこし 君は走りぬけてゆく その無邪気な微笑みと まっすぐな瞳を忘れないで 自由な翼が折れて飛べなくなっても 君の澄んだ想像力さえあれば 目的地にたどり着くからだいじょうぶ 君は素晴らしい 微笑みの持ち主だから 君はやさしい こころの持ち主だから どうか その瞳の輝きを忘れないで
枯れ葉が舞って 秋のパァッカ、パァッカ プルッ、プルッ プルップ、プルッ 大げさな句読点の鼻 ふくらませては得意げだ 潤んだ瞳に誘われ たてがみあたりを叩いてやった 彼は喜んでいるのか プルップ、プルッ たぶん そういうことだと思う 憧れへ進み続ける走りは 風景にしっくりと染まりながら 秋を心地よく感じさせてくれる すこしくらいバランスを崩しても大丈夫 信頼という安心があるから パァッカ、パァッカ 枯葉は舞い僕は微笑みながら パァッカ、パァッカ 彼の幸せも弾んでは伝わってくる さあ、もっと先へ どこまでも、どこまでも、どこまでも 走っていいんだよ
えっ 生命の誕生が地球からでなく 彗星からだって 宇宙の博士さん 今日の講義もぶっ飛んでいるなあ 俺たちの祖先は海からだと思っていたけど どうもそれは違うという理論が有力らしいよ それがさあ 時速60,000キロで太陽系の果てから 飛んでくる彗星に俺たちの起源があるらしいよ もう なんてこと言っているんだよ博士! そんな感じで聴いていたんだけどさ まず 60,000キロの速さってどんなの? スペースシャトルが28,000キロっていうから うーん 全然わからないくらい速いってことだね それで どうして太陽系運動会で一等賞の彗星が 俺たちの起源と結びつくんだよ あまり嘘っぽいこと博士が言うから この講義をBGMに寝てしまおう そんな衝動に駆られたんだ だけど どんな風に博士が作り話を続けるのか 興味があったからけっきょく 全部聴いたんだけどね 講義には人間って凄いなあ そう思える話しもあってさ その超高速の彗星に人工衛星を着地させ 吹っ飛ばされないようにしながら 情報を地球へ送ったりするんだって やっぱり人間のやることもなかなか凄いじゃん それでね この理論の裏付けとなる物質があってさ それが 彗星から確認されたアミノ酸ってわけだ これはね 地球にあるアミノ酸が彗星にもあるってことは 彗星が地球に衝突したから 生命の起源に必須なアミノ酸は彗星から来たという 仮説が立てられるわけさ ふふん 今の俺 博士っぽく語っていたでしょ もうこの辺の話しになったら こりゃ博士の作り話ではなさそうだ そんな感じで耳はダンボになっていたよ そして この起源の理論は研究者の中では けっこうスタンダードらしいよ 凄いじゃん 人間 俺達ってさ 地球人? 彗星人? う〜ん じゃあ彗星と地球のハーフなのかい なんか今までの地球人という括りすらなくなっちゃって こうなるとさあ 肌の色や生まれた場所くらいで差別する 人種差別なんてなくなるんじゃないか ねえ そうだろ 俺たちみんな太陽系の雑種なんだからさ それにしても博士って 彗星ぐらいぶっ飛んでるよなあ 想像も出来ないことばかり 掘り出して行くんだからさ スケールがデカ過ぎの話で 俺も今回ばかりはぶっ飛んだよ ほんとうに 今回の講義は最高だったよ 俺の成績の悪さなんて関係ないってくらい ぶっ飛んでいたよ えっ レポート? もちろん出すよ!