君は右君だと思っているみたいだけど ほんとうは左君なんだよ 右を見ると右君の僕がいるでしょ だから君は左君なんだよ 僕を左君だと思っているでしょ だったら僕が左君になってもいいよ 右君でも左君でも構わないよ 右君に拘っても左君に拘っても 僕は僕で僕以外の僕じゃないんだから それに君は君で君以外の君じゃないんだから
朝は弱い僕を知っている 不安が目を覚まさせ 今日の始まりに躓いて起き上がる 昨夜の他愛もない一言が 浅い眠りから気怠さへ繋げて 椅子に座り肩を落とす カラダは重たく沈んでゆく ミャ〜と猫が膝に飛びのり 何もかもお見通しのその目で 僕を見つめると腕を伸ばし胸を掻く 両手で撫でる 気がかりを少し消しながら 猫は静かに飛び降り離れてゆく 遠い目で窓の外を眺めながら 僕の視線を誘導して 今日も深々と雨が 共感が濡れ染み込んで 僕はやっとの思いで立ち上がる
月に雨 螺旋を描き ダーツのように大地を刺す雨 泥は隆起し足枷となり 俺の足は奪われる 腹を空かした禿鷹が距離をおき 俺という獲物の様子を伺う すでに食物連鎖を 俯瞰している立場ではない だが俺はまだ生きている お前達が集まるにはまだ早い 失せろ 失せろ 俺は終わっていない 次第に 腐食してゆくカラダ 弱気から捻じ込んでくる死 疲弊した俺の前に 甲高い声で笑い 黒マントの悪魔が降りてくる トドメを刺すのか 凍りつくような微笑 悪魔の指は 俺の頭を鷲掴もうと腕を伸ばす 俺は睨み返し唾を吐く 悪魔は再び微笑み 低い声で 死ね 消える悪魔のカラダから 無数のコウモリが湧く 月を覆い尽くすコウモリ 雨の暗闇 空気に亀裂 雷がメトロノームを刻むように 音を立て光を放つ 断続的に暴れ狂う馬 確実に俺に向かっている 一枚づつ姿を変える馬 前足が消え 後ろ足が消え 頭部が消え 胴体が消え それでも俺に勢いは来る 残された尻尾が波打ち 俺の頬を叩く 目を閉じる反射 ガラスの割れるような音 耳からカラダ全体に響き 神経が潰れる痛み 限界を越え 振り出しに戻る 月に雨 螺旋を描き ダーツのように大地を刺す雨 泥は隆起し足枷となり 俺の足は奪われる 腹を空かした禿鷹が距離をおき 俺という獲物の様子を伺う 月に雨 生への執着止まずに
今日も飲まされながらも 満たされぬ渇きが次第に強くなる 主人はテーブルにコップで差し出す ふたりは笑窪をつくる、上手につくる 定事の絶対に手だけが震え 右手に左手を添えれば 左手も震え 次第にテーブルがガタガタと震え 床に共振すれば主人が痙攣し始めながら これは僥倖だ 素晴らしき我がオモチャよ さあ、もっと飲みなさい もっと、もっとだ 頭蓋骨の穴から甲高い声を発する 飲みたい、もっと飲みたいのです 水をください、どうか水をください 潤うことの知らない喉は水を欲しがる 与える優越が無情に有情を 終わることのないふたりの因果 主人は知っている 自分が本当はオモチャであることを テーブルに水のないコップを差し出す ふたりは笑窪をつくる、上手につくる 喉に拘束の美を流し込み 留まらない渇きに震えながら ふたりは笑窪をつくる、上手につくる
愚かなる我を知り 充実から滲む言葉を磨き 喜ばせよう貪欲を散りばめ 放つ詩は惜しみなく 鈍き輝きであろうとも 光放つ詩人であれ 咀嚼しきれぬ想像 表現しきれぬ創造 未だ貧困なる詠み手だが 山月記の詩人と同一化せず 虎に成ることを拒み 拒絶は頑固に硬い コンプレックスを才能の素とし 先天的な継続力 集中に溺れて微笑む楽観の機動力 力をハイブリットな螺旋で濁り合わせ 努力からでは得られない道 想起の渦巻く言葉を繋いで行く 道の途中 画竜点睛を欠いた愚作を認(したた)めたのなら 足らぬ目玉に全身全霊の体当たりで色づけ 染める言葉は要を撃ち抜き 愚かなる術(すべ)に揺らぐ心は微塵もない 我は情熱を長く持ち続け その道を突進すればよい 我にある一本道 迷う訳がない ✳︎「山月記(さんげつき)は、中島敦の短編小説。1942年、『文学界』に「古譚」の名で「文字禍」と共に発表された。唐の時代に書かれた「人虎」として知られる中国の変身譚(清朝の説話集『唐人説薈』中の「人虎伝」などに収められている)を元にしている。高校2年生向けの文科省認定教科書『国語』に頻出。 《Wikipediaより引用》
えっ 生命の誕生が地球からでなく 彗星からだって 宇宙の博士さん 今日の講義もぶっ飛んでいるなあ 俺たちの祖先は海からだと思っていたけど どうもそれは違うという理論が有力らしいよ それがさあ 時速60,000キロで太陽系の果てから 飛んでくる彗星に俺たちの起源があるらしいよ もう なんてこと言っているんだよ博士! そんな感じで聴いていたんだけどさ まず 60,000キロの速さってどんなの? スペースシャトルが28,000キロっていうから うーん 全然わからないくらい速いってことだね それで どうして太陽系運動会で一等賞の彗星が 俺たちの起源と結びつくんだよ あまり嘘っぽいこと博士が言うから この講義をBGMに寝てしまおう そんな衝動に駆られたんだ だけど どんな風に博士が作り話を続けるのか 興味があったからけっきょく 全部聴いたんだけどね 講義には人間って凄いなあ そう思える話しもあってさ その超高速の彗星に人工衛星を着地させ 吹っ飛ばされないようにしながら 情報を地球へ送ったりするんだって やっぱり人間のやることもなかなか凄いじゃん それでね この理論の裏付けとなる物質があってさ それが 彗星から確認されたアミノ酸ってわけだ これはね 地球にあるアミノ酸が彗星にもあるってことは 彗星が地球に衝突したから 生命の起源に必須なアミノ酸は彗星から来たという 仮説が立てられるわけさ ふふん 今の俺 博士っぽく語っていたでしょ もうこの辺の話しになったら こりゃ博士の作り話ではなさそうだ そんな感じで耳はダンボになっていたよ そして この起源の理論は研究者の中では けっこうスタンダードらしいよ 凄いじゃん 人間 俺達ってさ 地球人? 彗星人? う〜ん じゃあ彗星と地球のハーフなのかい なんか今までの地球人という括りすらなくなっちゃって こうなるとさあ 肌の色や生まれた場所くらいで差別する 人種差別なんてなくなるんじゃないか ねえ そうだろ 俺たちみんな太陽系の雑種なんだからさ それにしても博士って 彗星ぐらいぶっ飛んでるよなあ 想像も出来ないことばかり 掘り出して行くんだからさ スケールがデカ過ぎの話で 俺も今回ばかりはぶっ飛んだよ ほんとうに 今回の講義は最高だったよ 俺の成績の悪さなんて関係ないってくらい ぶっ飛んでいたよ えっ レポート? もちろん出すよ!
おばあさんの ツルさんは誰とでも話す どんなモノとも話す 米屋のじいさんに会えば 今日もお互い生きているね そうかと思えば 鯉のぼりと話している 今日もよく泳いでいるね はあ そうかい そうかい 気持ちいいのか うらやましいの わしもむかしはあんたに負けず 泳いでいたよ 散歩中のツルさん カラスに怒っている ほい ダメだぞ 畑を荒らしたら あっちへ行け クロちゃんや 僕はツルさんがなんだか好きだ どんなモノとでも話せるから とてもやさしいんだと思う この間はあの世にいっちゃた おじいさんと話してた まだかい まだなのかい わしをいつ迎えに来てくれるのかね そうかい そうかい まだおまえさんの準備ができてないのかい それなら仕方ないの 僕は縁側に座っている ツルさんのを見つけると声をかけるんだ ツルさん ほいほい 僕ちゃん となりはいつも空いてるよ 僕はツルさんにくっついて座るんだ 背中が丸くて 顔が丸くて かわいいんだ ツルさん 縁側の板を見つめ ほい こんなところに大きなほくろが あったんだね 長年つき合っていたけど 知らなかったよ ごめんな 僕の落書きの消し忘れと話してた おかしかったけど ツルさん真剣だった この間はあの世にいっちゃた おじいさんと話してた ツルさんの口ぐせは ありがとう ありがとう お天道様 おかげさまで今日もいきいき ありがとう ありがとう 雨の日には ありがとう 雨降り様 おかげさまで今日もいきいき ありがとう ありがとう ツルさんに一度聞いてみたんだ ツルさん どうしていろんなモノと話すの 僕ちゃんだって オモチャと話すじゃろ それと同じだよ そういっていた そんなツルさんのことを お母さんはいっていた ツルさんは生き仏なのよ 僕はお母さんがいうことは よくわからないけど ツルさんがいるだけで なんだかほっとできるんだ 僕はツルさんがとっても好きだ だから ありがとう ありがとう おかげさまで今日もいきいき ありがとう ありがとう ツルさん そんな気持ちになる
足元が濡れ 水たまりには波紋 ビニール傘が雨空を透かす 駅に着く 雨がっぱを脱ぐひと タオルで拭くひと 綺麗に傘をたたむひと 滑らないように乗り込む 車窓からはどんよりな風景 薄暗い朝が続き 雨音を聞こうとするが やはり電車からは聞こえない 誰かの傘が倒れて ハッと火曜日の朝に戻される 晴れの日を模しながら なるべく何時もと変わらぬよう ひとは雨を避けながら過ぎてゆく 雨を楽しみ余裕はないけれど 心の何処かを潤しながら 火曜日の朝は淑やかに始まった
夜のネコちゃん まんまるお目めで なにをねらっているの 虫さん 風になびくスカート それとも わたしには見えない あれなの こわいこわい 私の気のせいよね 昼のネコちゃん ほそ長お目め どうしてきれいなの クリスタルの きれい、みわく、きらりん 夢の世界が見えるの ネコちゃんのお目め 宝もののお目め そのお目めで わたしがどんなふうに見えるの
宇宙の構成について 物理学の博士さんが熱弁 宇宙の物質は 水素やヘリウムの元素は5%に満たず 宇宙の殆どは 暗黒エネルギーと暗黒物質で構成され 我々のような人間の原子は 0. 02%の存在に入るらしい はあ なんとか書き留めたよ 難しいこと言うから ノートするの大変だったよ 液晶画面で熱弁する物理学の博士さん あんなに重そうな飛行機が 飛んでしまうのも理解できないのに 暗黒とかいう真空のことを言われても ちっとも解らない 五桁の数字さえも右から左の 俺の短期記憶じゃ 暗黒云々は理解不能だ 残念だけど仕方ない でも解ることだってあるんだ 宇宙は想像できないくらいデカくて その中で生物として生きている俺たち これは奇跡よりも遥かに確率が低い 宝クジで六億が何度も当たっても そんなのは比じゃないくらい 俺たちはラッキーな感じになってる まあ 生まれてすみませんと 残念がるひともいるけど ひとそれぞれ そんな奴がいるから 面白いって感じもするよ人間 いやいや 俺たちが生きているのではなく これは蜘蛛の夢だと 言ったひともいたけど それは違うと思うよ だって ほっぺをつねったら痛いから 俺たちは蜘蛛の演出した役者じゃないはず でしょ? そんなことより すごい話をその物理学の博士さんが言っていたよ もしタイムマシンで過去に戻ると 本当の自分と スラッシュのついた自分が存在するんだって だから後者の自分は自分ではないらしいよ じゃあ それって誰って感じだけど なんとなく寂しい存在になってしまうね まあ タイムマシンがあったら スラッシュ自分がいっぱいになって ほんとうの自分を探そうとしたら 「ワォーリーを探せ」より 難易度が高くなるよ やっかいな話だ でもそれには タイムマシンがいっぱいないとね 疑問がひとつ タイムマシンでもとの 自分のところに戻ったら スラッシュ自分は スラッシュスラッシュ自分になってしまい 帰る場所がなくなっちゃう やっぱり寂しい感じになっちゃうねかな なんだか物理学って面白いみたいだ それに 博士さんってユーモアがないとダメなんだね だって面白い話ができないと 誰も聞いてくれないだろうし ほんとうのことってユーモアの中にあるんだよ きっと 面白くないと説得力ないしね 物理学の博士さん 今回の話 いい感じだったよ