ビルの谷間では見えぬ稲 乾き始めた風に実りの秋は 色づいてきただろうか 轍を上手に跨ぎ イナゴの上をトンボが飛んで 雲の向こうにはくれないの夕日 僕は少し早めに出勤し 職場近くの公園 目を閉じ香ばしき風の匂い 贅沢なひと時にほっこり 今日の素晴らしい始まり 幸せの風を感じながら
ピアノの響きを突き刺してくれ 小心者の繰り返しに終止符を クレージーな早弾きで 都会の景色が奏でられると コーヒーカップを手にしたまま 街が歩き出し僕を置いてゆく 口をポックリ開けてここに佇むしかない 目の前の奏者は我が世界の中で 芸術の衣に身を任せ 僕をその世界へ手招きしている ピアノの周波数は僕のこころに反響すると 奏者への尊敬なんてどこかへ消え 素敵な集中の顔に見惚れてしまい だんだんピアノの音が深く突き刺してくる もう奏者がピアノなのか ピアノが奏者なのかわからないほど 一体化してゆく奏者とピアノ そこから既成概念を鍵盤で 破壊してゆくエネルギーを発し 僕は孤独に落ちてゆく喜びに ただカラダは冷めたく充実を得ている 現実の緊張は完全に奪われ 薄暗い小さな空間は 芸術のリズムが時間を止め いつかどこかで感じていた安息の地に ミルクのようにエスプレッソへ溶け込んでゆくようだ 脈打つ違和感さえもシナモンに変えて相乗してゆく喜び 日々の痛みを超えた先にある憩いは 僕のフラッシュバックを雨のように降らせて カラダを包みながら ピアノの響きは頭を突き抜けてゆく 深層にある豊かで冷たく輝く場所へ そのクレージーな早弾きで
しとしと降る雨のように 丁寧にアルペジオで奏でる 僕のつくる景色は どこまで描けるのだろうか 君の疲れた心に沁みるように 弦を弾いて 蔑ろな甘えは僕の罪 すれ違いの心 君に寂しさがおし寄せた これではいけない 想い出の栞をつまみ だいじなページを開いてみる 夢で輝く僕を見つめる君の瞳 ふたりの原点は前しか見えてなかった 君を包み 離さない約束 僕は、きっと という言葉で遠ざけていった 日々の暮らしになんか 負けないはずだった 背をまるめ寂しさと疲れで震え 君の頑なが崩れかけ こんなに悲しませてしまったんだね 今、僕が雨になって 君に優しく沁みていかなくちゃ 弦を弾く指は 安心させるように靡かせ 大好きな君へ アルペジオの景色を奏でて その涙を拭おう
あなた様の場合 魂が通常より小さく燃えているため 金額はこちらになります 納得されないようでしたら 私どものお勧めは 差し控えさせていただきます よくお考えになってくださいませ そうですか ご契約になられますか ありがとうございます それではご成約に ご協力を願い致します その前に 先ほどの説明と重複致しますが もう一度ご確認させていただきます 命の期限ですが こちらはご成約後 三ヶ月となっております お売りになった命の代金は こちらの契約書にご記入後 現金でご用意致します ご自由にお使いくださいませ 当店では 一度お売りの命に限り 買い戻しは致しかねますので ご承知くださいませ 先日どうしても買い戻したいと おしっしゃるお客様がいました こちらとしても対応しきれぬと 判断致しまして 閻魔警察に通報する事態が ございました くれぐれもそちらに関しては ご理解くださいませ そうですか ありがとうございます では ご記入をお願い致します 二箇所ございます まずはこちらのご契約者名に 署名をお願い致します 大丈夫ですか お手が震えていらっしゃるようですが はい 失礼致しました それではこれで最後となります 私の命を売ることは生きている者が犯す 悪辣である罪のひとつとわかって 売却することに間違いありません こちらの文面の左横に ご署名と捺印をお願い致します どうなされました こちらへご記入くださいませ そうですか 承知致しました ご時間が必要とのことですね 後日にまたお越しの際 記入いただいたご契約書を お持ちにくだされば すぐにでも売却金を お支払いさせていただきます なおご契約書が涙で汚れた場合は ご契約は成立致しませんので ご注意くださいませ では 本日はご来店 命の査定を ありがとうございました またのお越しを 心よりお待ちしております
何を隠そう私はクスグリマン 隠してないじゃないか 君はそう言いたいね でも、残念ながら 私は透明人間になれるから 隠れることができるのさ それで、クスグリマンって 何をしているか知ってる? 知ってたら 私の存在を知られている って、ことになっちゃうけど まあまあ、落ち着いて 聞いてくださいな 私はひとの幸せのために クスグリ続けるクスグリマン 変身! これを変身というか わからないけどね と、言うことで透明人間になり まず、街をふらつきその現場を探す 何を隠そう いや、隠れているんだけどね 喧嘩している現場を探すのさ そのひとたちをくすぐって 笑わしてしまうという奉仕活動を、ね 喧嘩はダメダメ 喧嘩しているところでクスグルと 急に笑い出すひとびとが多い 当たり前か たいてい えっ、私たちなんで喧嘩してたっけ そんな雰囲気になるのが7割 あとの2割は そのまま笑い続けてしまう 結果オーライっ 笑いながら なんなんだ、お前は と、言って殴り合ってしまうのがたまに んん、残念 街中で喧嘩していたひとが このような流れになった場面に遭遇したら それはクスグリマンの奉仕活動だよ へっへっ 正体をばらしてしまった でも、変身前の私は 見つけることはできないよ 私はレア中のレアキャラクター その名もクスグリマンだからね
火曜日、水曜日より なんとなく存在が薄い 土曜日、日曜日なら 街の雰囲気も変わって ひとの表情も明るい 土日の勤務は お疲れさんとしかいえない 月曜日なら電車の中 一番に眉間のシワが深くなる 金曜日なら もうひと頑張りの空元気 木曜日 はて、なにかあっただろうか 思い浮かばない今日、木曜日 無表情 気はどこかに飛んでいる でも、時間ばかり長く感じ 時計を見る回数の多い木曜日 木曜日 お前の正体はいったい 目立たないようでなにかを企んでる おお 木曜日 なぜにお前は 木曜日
首のまわりに汗が出ている 目覚めてすぐにシャワーを浴びたい朝 もう九月八日というのにこの暑さは 枕カバーも濡れているようだが 朝はカラダが軋んで動けない 腕を回せばバギバギと鳴り 胴体は丸太のようにコッチコチ 扇風機のスイッチを足の指で押す 子どもには見せられない技だ 首筋が冷たくなる やはりなんとか起きよう 仰向けからうつ伏せ 肘を伸ばしワンっ、と言ってしまいそうな体勢 腰に気を付けながら起立して腕をあげる ああ、肩が回らないで腕を下げる はあ、疲れがたまっている 寝る前にアスタキサンチンとビタミン飲んで ストレッチもしてテンピュールの布団で寝ているのに まあまあ、そんなもんだろう 今までカラダを使い働いてきたのだから ほら、お陰で太っていないじゃないか 生活習慣病だってギリギリセーフなのだから そんなことを考えながらまた横になり タブレットを手にしている 案の定、目覚めの詩を書いてしまう これを朝の幸せとひとは言わないけど 俺は言ってしまう さあ、そろそろこの詩も完成か また起き上がるとする 次の詩は書くなよ、自分 遅刻するなよ、自分
発車の時間が近づいております くれぐれも想い出などはお持ち込みにならぬよう、 ご注意くださいませ もし、あなた様の生き様や歴史などをお持ちの際には、 ホームに備え付けてある「忘れる箱」にお入れください 終点の虹工場までそれらのものを持ち込まれますと、 余念が虹づくりに影響され、 下界への美しいシチュレーションが損なわれてしまいます 何卒、ご理解のほどよろしくお願い致します なお、虹工場での業務においては、 あなた様が清らかで作業され、 素敵な虹づくりをなされることをご期待致してます また、この汽車の燃料はあなた様の肉体が利用され、 煙突から、白い煙がもくもくと立ち上がっています 発車まで生きていた頃の証を葬儀にいらしゃる親族様方が見上げますと 太陽の光に煙が反射した小さな虹をご覧になられます 誠に申し訳ありません 只今、車内で恨みつらみを持ち込まれたお客様がおいでになるため、 この汽車は五分ほどの遅れが見込まれます 何卒、車内でのマナー違反したお客様の対応にご協力をお願い致します 本日は汽車が遅れまして大変申し訳ありませんでした 大変、お待たせ致しました 当汽車は、まもなくの発車のとなります あなた様が冥途の土産をお買い求めになる際は、 お急ぎくださるよう、お願い致します なお、本日は忘れな草のほのかな匂いが限定販売されています 発車から数秒ほど香りを満喫することができます ご利用いただけると葬儀にいらっしゃる親族様方が、 思わず懐しくてほほ笑んでしまう、 あなた様のエピソードを披露することとなっております ぜひ、この期にご利用くださいませ ジリリリーーーーーーーーーーーーーーーーー ジリリリーーーーーーーーーーーーーーーーーン 発車致します 次の停車駅は虹工場、虹工場 発車
こめかみに生食を押し込まれ 圧迫された感じで 目の周りがぎゅぎゅと痛い それでも大好きな詩を綴ることは なんとかできそうだ なんせ頚椎を拡げた身 そんなことは日常茶飯事 レゲエでも流して気分を変えて ボンバーヘッド って、叫んで苦笑いをしてみる ラヴㅤラヴㅤミー ラヴㅤラヴㅤミー 弾む女性ボーカリストが ノリノリの天然リズムでいい感じ 週の真ん中 卑屈になるくらいなら 辛い入り口に歯を食いしばり 詩の世界へ一歩踏み込む ほらㅤほらㅤほら 痛みなんて忘れている どんな薬より集中力は効くのさ なんとなく楽観ㅤㅤヤァㅤヤャㅤヤァー なんとなく超越ㅤㅤヤァㅤヤァㅤヤァー なんとなく素敵ㅤㅤヤァㅤヤァㅤヤァー 禍を転じて福と為す詩を綴ってしまえ なんでもありなんだから詩は自由を愛する 頭が痛いのなら そこから綴ってしまえばいいのさ 詩の許容範囲には感謝だ こんな作品でも俺的には大満足 なんとなく姑息ㅤㅤヤァㅤ ヤァㅤ ヤァー なんとなく真髄ㅤㅤヤァㅤ ヤァㅤ ヤァー なんとなく頚椎ㅤㅤヤァㅤ ヤァㅤ ヤァー なんとなく忘却ㅤㅤヤァㅤ ヤァㅤ ヤァー こんな感じの詩でどうよㅤ おうっ、ボンバーヘッド うっ、痛っ 次の詩へ行こうか
どこへ、なにを急いでいるのかい 何年か先に定年退職し その先も生活のためになにかしら仕事をして 働けなくなればテント持って彷徨うだけのこと 俺はこんなに働いてきたのに、なんて仕打ちなんだ そんなこと思ってもなにも変わりやしないのだから 人生は気楽に楽しく行かなきゃ、そん、そん どう計算したって最低限度の生活はできやしない たいした財産もないが売れるものは売って 買わなくてもよいものは買わず 海に行っては魚の幸、山に行っては山の幸 食べていくための知恵はつけなければならない 暑さ寒さをしのぎ、虫や動物から身を守り 病気をしないように祈り、たまに笑えれば幸せだ 今まで払い続けた福利厚生費は どなたかのパン代にはなったのだろうか 少しでも役に立てばもうそれでよい 政治家を恨んじゃいない 選挙で選んだ我々がどうせ悪いんだ そう言われてしまうのだから、これでよい そういう国に生まれて育っただけのこと この国を豊かによくするための改革 進んだ先がこれなんだから、受け入れよう 間違ったことがあるとすれば それは時間に追われて急ぎ足で進み 豊かになる未来を他人任せにしてしまった それぐらいなんだろう もう生きていければそれでよいじゃないか きっとその中には幸せがあるのだから どんなに急いでも 掴めないものは、掴めないのだから どんなに急いでも 俺たちは笑えやしないのだから どんなことになっても 俺たちは幸せに生きる強さがある そう、信じたいね