今年の読書(56)『世界はゴ冗談』筒井康隆(新潮文庫)
Jun
26
新潮社の「書き下ろしシリーズ」の『虚航船団』はサイン会でのサイン本として本箱の中に埋もれているはずです。
差別用語事件で「断筆宣言」をされたということで著者の作品としては『文学部唯野教授』が最後になったでしょうか。神戸から東京に引っ越してしまったというのも、読まなくなった要因の一つだと思います。
また言葉遊びとしての、ブラックユーモア・ギャグ・ナンセンス・駄洒落に疲れてしまったのが一番大きな要因かもしれません。
本書『世界はゴ冗談』は、2015年4月に単行本で刊行、2021年6月1日に文庫本として発売され、全10篇の短篇が収められています。
幕開けは、<信頼出来ない語り手>などをはるかに凌駕する <まったく信頼出来ない語り手> による衝撃の超認知症小説『ペニスに命中』。ある染色体の消滅から激変する人類の近未来を哀切に描く『不在』。太陽の黒点の異常増加、電子システムのダウン、「お風呂が沸きました」「バックします」等の電子音声の異常、炸裂する異常の連続を描いて捧腹絶倒の表題作『世界はゴ冗談』。<午後四時半>を討伐に向かった男がやがて、高気圧を操る国家プロジェクトに巻き込まれていく『奔馬菌』。メタフィクションの先にある、世界初のパラフィクションに挑んだ『メタパラの七・五人』。
著者の面目躍如といった『三字熟語の奇』は、三字熟語2352をただ単に19ページに渡り羅列しているだけです。道徳的錯乱なのか文学的進化なのか、どの作品も著者ならではの10編でした。