今年の読書(27)『焦土の刑事』堂場瞬一(講談社文庫)
May
24
戦争末期の1945年、B29による空襲の翌朝、ビルの地下防空壕で若い女性の遺体が発見されます。首には刃物による切り傷があり殺人事件でした。京橋署刑事の「高峰靖夫」は署長「富所」から「捜査中止せよ」という思わぬ言葉を聞かされます。警察上部による殺人事件のもみ消しが行われ、そしてまた京橋署管内で同じように若い女性が防空壕で刺殺体で見つかります。「高峰」は、中学からの同級生で特高に籍をを置く「海老沢」の協力を得て、終戦をまたいで「戦時下の殺人」の犯人を追い詰めていきます。
小説の書き出しが舞台の台詞で始まりますが、犯人逮捕時に生きてくるいい構成でした。
「高峰」と「海老沢」の共通の趣味である〈演劇〉を戦争中の特高の理不尽な検閲問題を絡め、戦中から戦後の世相を背景に、「殺された人間がいるとしたら、犯人を捕まえる」という刑事の正義を貫く「高峰」と特高としての仕事に意義を見出せない「海老沢」、そして戦地に出向き戻ってきた「小嶋」との中学同級生の人生が絡まり、新たなる昭和史として今後の展開が楽しみです。
ただ、犯人逮捕で事件は解決したものの、警察組織の階級社会として「富所」署長に捜査中止を命令した人物との流れが未消化で残っているのが気になりながら読み終えました。