今年の読書(16)『巡査たちに敬礼を』松嶋智佐(新潮文庫)
Mar
8
元警察官として『女副署長』で華々しくデビューしました<松嶋智佐>の最新刊『巡査たちに敬礼を』が、2024年3月1日に文庫本として発売されています。
『小説新潮』に2018年9月号から2022年3月号まで掲載されました6篇が収められています。
『障り』では、41歳のバツイチ・子持ちの交通課係長「槇田水穂」が、同じ警察官の元夫の28歳の再婚相手の観察官とのやり取りが描かれ、娘「淳奈」の登場がのちに生きてきます。『罅(ひび)』での、事故係に異動したばかりの若手巡査「蝦川マナ」の、駐車違反にまつわる意外な結末や、『拝命』での、昇任試験を控えた女性警官、『南天』での警察学校在学中運動場の国旗掲揚台での殺人事件、『穴』では、登山にて行方不明になった少女の捜索に出た生活安全課少年係で女性機動隊所属の「内野実咲」の景観としての矜持、『署長官舎』では、郊外の所轄署に勤める定年退職目前の署長「五明」が、行方不明になる事件の真相を追い求める刑事でない総務課の「丸の篤史」の活躍などがおさめられています。
解説の<あさのあつこ>さんは、これは警察小説ではないと書かれていましたが、世代もキャリアもバラバラな彼らの前に立ちはだかる仕事と人生の問題を、リアルな人間味に溢れた〈巡査〉としての生き方を描いているのは、まさに警察の舞台ならではの胸に迫る短編集でした。