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今年の読書(64)『ブルース』桜木紫乃(文春文庫)

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今年の読書(64)『ブルース』...
好きな作家の北海道在住の<桜木紫乃>ですが、デビュー10周年の著者による、釧路を舞台とし、一人の男をめぐる、八人の女たちの生きざまが絡むノワール小説『ブルース』(2014年12月刊)が、2017年11月9日に文庫本として発売されています。
 
霧たちこめる釧路で生まれ、貧しく苛烈な少年時代を経て、男は、6本ある自らの過剰な指を切り落として、夜の支配者へとのし上がります。男の名は、「影山博人」です。
 
最初の物語は、没落した社長夫人が、かつて焦がれた6本指の少年の訃報を新聞に見つけるところから始まります。
 
同衾した女をみな翻弄し、不意に姿を消してしまう正体不明の男であり、故郷に戻った後、暴力で容赦なく人を支配する政治の世界の黒い権力者として君臨します。はたして、「影山博人」は、外道を生きる孤独な男なのか? それとも、女たちの「夢」の男なのか、小気味よい描写で物語は進みます。
 
不思議な魅力あふれる「影山博人」の、15歳、19歳、27歳、32歳、そして、40手前から52歳までの8つの時期を、その時々に出会った女による語りで構成されています。
 
「影山博人」と関係するそれぞれの女たちは皆何かしら困窮しています。死別で、離婚で、借金でと誰かや何かにすり減らされてひりひりと痛むような乾いた心を持っているのです。そこにある程度の「まっとう」を手に入れ、今もなお貪欲に模索している「影山博人」が現れます。そんな男に、女たちがひかれない訳がありません。もしかすると、影山の指が6本なのは、より多くの困窮にあえぐ者にチャンスを与えるために余分に備わったのではないかとすら思えてきます。
 
釧路という町の舞台が、この作品に深みのある情景を与えており、連続短篇として、心に残る物語でした。
#ブログ #文庫本 #読書

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