止め去りし時のひと 波打つ影を押し流し 平らを願う沖のひと 儚きは美しの浅葱色 燃ゆることなく 天性を纏い揺れる網目 寄せては返す光と影 調節する原始の心 膨らみ萎む気泡の夢 宿命の次にざらつく 滑り込む砂利の音 正直な脈に偽る潮の声 生き絶えし時のひと 重なる美徳の潤い 止め去りし時のひと
笑っちまったテレビにも飽きて 空しさがカラリンと鳴れば ガソリンを2リッター入れて 近場を二輪でぶっ飛ばすのさ 生き場所もありゃしない 暇つぶしだけのくだらない夜 街を忘れた道がのほほんと続く みんな何処へ行ってしまったんだ あれだけ馬鹿をやっていたのに もう俺だけになっちまったよ シラけた風がくすぐっては笑える 馬鹿をやめるのは さほど難しくはないさ ただなんか違うんだよね そう、一生を貫けないのは 悔しと思うだけなんだ ああ、馬鹿で笑っていたいんだ 笑えない人生なんて飽きてしまうだけ どうしようもない馬鹿と言われても 意地になって笑っていたいんだ
君の心はこんなに 冷たくて切なくて哀しくて 時の風にも吹かれぬまま 降り積もるチェロの音だけが そこにいることを示す ビルの谷間に響く 道化師の揺らめく弦 涙の化粧は 嘘をつくのが上手で 立ち止まるひとびとに 視線は合わせず ずっと遠くを見る瞳 過去を膨らます趣向 未来というおとぎ話を消し 白い花を想いださせ 進まない不安定を飾る やがて君は壊れたように 演奏を終えて崩れてゆく ひとびとがまた流れだす コインが重なる音 ふたつなれば 君は生き返ったように お辞儀をみっつした
縦をなぞる雨 風なき空の下では 水たまりにぽつんぽつん 純粋の音を響かせながら お茶目に踊っています 波紋は続き 時計より楽しく時を刻みます いつか君が 両手をひろげていた バレエのレヴェランスを 想い出していました さよならの挨拶だったのですね 君は最後まで微笑んで 雨の中 すっと手を差し出すと 手のひらで君は踊りました ありがとうを ぜひ素敵な君へ
バン バンバン 迂闊に咲いた花なら 笑えばいいだろ バン バンバン 負け犬の花びらなら よだれのかわりに 血を流すだけさ バン バンバン へっへっ バンバン エゲツなく絡まった花なら 笑えばいいだろ バン バンバン 孤独を愛せる本物の花 砕け散る 粉々がお似合いなのさ バン バンバン へっへっ バンバン クギャーアアアアアー
定年して嘱託で仕事を続け 健康であれば保障がイマイチでも 収入源は枯渇はしないだろう それも仕事があればの話だ 危うい未来はもう現実になって 日本はヤバイと呑気に言ってはいられない 自分の身を考えると 身体の麻痺が年々酷くなる そして死ぬまで頑張ろう 捨て身な感じになって 俺の腕が足が動けなくなり 使いものにならなくなったら 楢山節考みたいに 山に捨ててもらって生命保険が 家族の未来へ繋いでくれたら 本気でそんなことを思ったりする 家族がどうにか生きていくのに 代償があるのならば喜んで行くよ 山だろうが川だろうが海だろうが
進めと言われ 止まりたくなる心情 俺はずっと批判的精神 うまく生きれないのは本望 それが全てであるように納得すれば 後悔しているんだろ って、すぐ奴らが反応する 一体何なんだ ゴミを漁るカラスがカーカーと 鳴いているだけみたいな眼で ひとを見ないでくれよ はいはい、と流れて行くのは 俺にとってはクソ人生なんだよ 世間からしたら下手くそで 意味のない人生かもしれないが 価値観なんてそれぞれだろ うるせえんだよ ああ、はち切れてえなあ ああ、もっと馬鹿やりてえな ああ、壊れてえ 俺は途切れやしねえ 絶対にノーにイエスは言わねえ たった一度の人生じゃないか なあ、わかるだろ、あんた
私の気分に合わせているのか 私がそんな気分にされているのか 飛び出そうとすれば抑えられそうな 雲の切れ目も見えない浸透した空 今日も島崎藤村の本を取り出し 開かずに詩をしたため出す 窓からは流れるひと 液晶画面からは郷土ニュース 一瞬にして音のない世界が広がる 感化されやすい詩の世界 雰囲気に色を染めてゆく 灰色の空気に灰色の空 灰色の図書館では 灰色のひとたちが本の音を聴く そろそろ本を開いてみる 初恋 まだあげ初めし前髪の 林檎のもとに見えしとき 前にさしたる花櫛の 花ある君と思ひけり やさしく白き手をのべて 林檎をわれにあたへしは 薄紅の秋の実に 人こひ初めしはじめなり わがこゝろなきためいきの その髪の毛にかゝるとき たのしき恋の盃を 君が情に酌みしかな 林檎畑の樹の下に おのづからなる細道は 誰が踏みそめしかたみぞと 問ひたまふこそこひしけれ 薄紅を聴く 遥かな恋は色づき 灰色はいとも容易く慄いて
俺はどうやらバスに乗って 何処かへ行こうとしている 乗客は顔のない連中ばかり でも子どもの頃のように 怖くなったりはしない 得体の知れない怖さも薄まり 自分の存在ほど怖くない 歳を重ねると良いこともある 開き直りの哲学だ 狭いシート 外の景色は暗闇 面白くもなんともない 俺の構成力が乏しいのか それとも揺ら揺らしたいだけなのか 到着したらしい 運転手は目的地を知っていたのか もうバスは動かないらしい 乗車していた連中がぞろぞろと降りだし 俺もとりあえず降りる 上着をシートに忘れ 運転手に忘れ物があることを告げ バスに再び乗ろうとする 乗れない バスに乗れなかった もうバスは暗闇に吸い込まれ 姿も形もない しかし運転手は俺を見ている 顔もないのにどうして 乗車していた連中が連なり 何処かへ行こうとして列をなす 俺も最後尾につき歩き出す 言葉もなく覇気もなく ただだらだらと歩いている この先の逆らえない定めに 自分から進んでいるのか わからないが歩いている それにしてもなんて寒いんだ 肩がとても寒い あの上着があれば こんな思いははしなかったのに 進む先は暗闇の暗闇 何も見えないはずなのに 見えている暗闇がある そこに進んでいる 寒さの向こうにあろう目的地へ
ラーメンは時間との闘い 家庭で食べる自体が 邪道かもしれない でも今晩はラーメンと餃子だ お湯を沸かし生麺を入れる 具は先に炒めて準備万全 汁ももちろん出汁から作って フライパンに餃子を入れ 水をさし蓋をする ラーメンの器にニンニクを少々 つゆを入れたところで 「ラーメンだぞ、早く集まれ」 と声をかける よーし 麺が上がる ちゃっちゃさっさ 麺のお湯を切り 器に波打たせ泳がし 汁に染み込ませ具を盛る おお みんな運んでくれ おっと 餃子が焼けていない 台所でしばし待機 ラーメンのすする音が 聞こえてくれば幸せを感じ 時間との闘いも終わりがくる へい 餃子のお待ち 食いねえ食いねえ んっ 父ちゃんのラーメンのびてるなあ まあいいか うめえなあラーメン