冬は厳しくとも 蝋梅の直線な香りの園 ブロック塀から頭をだす 凛としたリズムで咲き誇り 夢開かんとする望み 愛おしい黄色の アンㅤドゥㅤトロワァ 寒ければ寒いほど 優しく遊んでしまう眼差し 寒空なんぞと 空に向けて手を広げ お茶目にお辞儀すれば 香りに誘われ 冬も良かれと頬を寄せて
君はそこで待っていると言った 僕はまだ生きていて 肩透かしの後 脱力したカラダ 赤や青や緑が抜けて 入れ物は黒と白ばかり 初めての喪失から 続くのは モノクロのフラッシュバック 太陽は教えてくれない 空は教えてくれない 海は教えてくれない ねえ 君は確かに言っていたよね そこで待っていると ねえ でも僕はどうやって そこに行けばいいのかい ねえ 僕は初めて悲しいんだよ
さあ行くぞ 今は絶好調だ iPadの画面は明るくして スラスラ書き込んで行け自分 新しい世界観 そんなもんほぼ無理だけど 今は絶好調なんだから なんかスカッとする 表現ができるかもしれない さあ行くぞ 詩の神様なんていらない 絶好調だからさ さあ行くぞ スペシャルな詩をドカンっと 打ち上げちゃうぞ 「それでは自信満々の齋藤純二さん、 詩の方をひとつお願いします」 え〜と そうですね では「接続語」という詩を 接続語 では、では むしろ、それはともかく 結果、というものの 右、左 としても、されど 前方、後方、だが しかるに、当然 同様に、かと思えば とたんに、したがって こうして、あちら、こちら まさか、まさか 引き続き、受けて では、では、結論をいえば おかけで、だから ……どうもありがとうございました 絶好調どころか どうやら撃沈らしい自分。。。
寒さは本領発揮 朝の布団の中まで影響され ぬるま湯に浸かっているように 寝床から出ることは出来ない それでも気合をいれ飛び出す カツカツとなる歯 半ズボンで冬を過ごした 小学生の頃が懐かしく頼しい 二十代、三十代、四十代 電車が混んでいれば 冬でも汗をかいていたが 最近は帽子を被り 手袋をしたままでも 一向に暑さは感じなくなる 変わってゆく身体 寒さに弱くなっていく精神 せめての温もり ほっと缶コーヒーを流し込み 自分にご褒美を与えながら 寒さに耐えようとして 足りないもの 冬の寒さに対し足りないもの 今の私には何が足りないのだろう 吸い込む空気が 身体を凍らしてゆく冬の朝
職場に着く 逃げる逃げる とはいうものの ロビーで缶コーヒー この数十分が好きなんだ あと三十分ある 一口、コーヒーを あと二十分ある 一口、コーヒーを あと十分しかない 一口、コーヒーを こんなことを 三十年もやっている 逃げながら何を 蓄えているのだろう さあ 缶コーヒーにキャップをして そろそろ行きますか いや、その前に もう一口、コーヒーを
一歩、外はもう凍る準備のできた匂い たいして収穫のない週末を引きづり 踏み出せば一通のメールに気づく おはようございます、と 温かいお言葉を頂いたのなら 背筋が空へ向かう思い 私は今日もありがとうございます、と 前に進むことができる 感謝しながら始まるよ、一日が
フロントガラスの向こう 小さな子どもとお父さん 車の中まで遊ぶ声が聞こえてくる その光景を ついこの間のように想い出す 走って、転んで、泣いて、笑って 息子に振り回され おーい、と言って追いかけた 用を済ませた帰り なんとなく公園に立ち寄り 駐車場でシートを少し倒し 昨日のことを想い出していた 就活でリクルートスーツが必要でさ 私の分身のような体格で息子が言った そして、紳士服店への道のりをふたり歩く 働き出せばそこにも生き甲斐があるだろう しかし、厳しいことも多い 就職すれば背広に身を包み 七人の敵と戦い 自分を押し殺すかのように 仕事をこなして行かなければならない 当然と言えば当然なのだが 時間は足早に過去を綴っていた ズボンに穴をあけて 遊びまわる息子を目に浮かべていると 一人前になろうとする喜びがあるのに…… なんだか寂しい気持ちになるのは おかしいよな、と思う そんな父親の私がいたりする 街を紅く染める夕日 何かを伝えたいように色は濃くなり ふたりを包んでいた ああ、我が親子の想い出 そこで養った力を信じようじゃないか 自由だった時間たちが 息子を大人にする最高の武器となり 社会の中で輝いて行くだろう さあ、帰ろう
台所に立ち 昨夜の食器を洗っている 足から冷えてきて 洗い上がる時間ばかり 計算している あとは すすぎ洗いすれば終わる そんな時に油断は襲う クシャミだ その瞬間 大声で叫んだ うおっ と 座り込んで 動けなくなる 腰をやってしった これで一週間は キツい 日々になってしまう お先真っ暗だ 急性腰痛は常連だ 湿布を貼り コルセットを巻き 安静 しかし適度に動く これが私の対処法 年齢の数以上にやっている 普段から気を付けて いるつもりだが こればっかりは 避けられないようだ 以前は犬の糞を 拾おうとして 腰が 固まったこともあった ちっとも笑えない そして今 布団に横になり なぜかどこからか 目覚まし時計の秒針が ヨイショ ヨイショ ヨイショ ヨイショ と音を響かせている 誰か その時計を どこかへやってくれ うるさいんだ おーい 誰か 今 立てないんだよ
ピアノの音は波になり 君に寄り添っては浮き沈み しなやかだった指 もう僕には絡まない 涙が面影を追いかけて 幸せの音 想い出そうとすればするほど 遠く取り戻せない刹那 風に吹かれる旋律 心情は寂しさの波を象る 海になった君 どうか許して欲しい 過去に生きてしまうことを 鍵盤を沈めながら 僕は君の波間に揺れている
イヤホンの冷たさが 朝の厳しさを伝え 飽きもせず同じ歌ばかり すでに疲れ果てた労働者の皆さん 電車で揺られた視線は 現実を離れた場所に向けられて 哲学に蓋をして 繰り返す日々の疑問は 最初から知らなかったことのように 答えを求めるようとはしない 社会に沿って自分を守っている日々 だけど朝ぐらいは何処かに逃げていたい 飽きもせずに同じ歌ばかり 止まった時間に少し自分を取り戻し