『懐郷』熊谷達也(新潮文庫)
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各短篇の背景は1960年代、昭和30年代後半を背景に、東京オリンピックを迎えるべく日本全体が右肩上がりの世相の中で、東北を中心とする社会背景が見事に描かれていました。
島で海女として生きる<妙子>は、連れ子の娘<啓子>と共に再婚相手の<聡介>の元に嫁ぎますが、仕事中に命綱が絡む事故に遭遇しますが亡くなった先妻<琴子>の力なのか、海で生きる女の連帯感とたくましさを描き、三宅島経由で物販が運ばれてくる御蔵島にたくましく住む<オヨネン婆>75歳、都会から田舎に引っ越した<小夜子>の野狐を通じての心の変化、膝を炒めている<敦子>は、再起をかけて出羽三山の登山に挑戦、仙台市のX橋でアメリカ兵を相手に春を売る<淑子>、集団就職をさせた中学生の教え子<聡>を心配して、岩手県から東京に出てくる教師の<貴子>等、ひたむきに生きる彼女たちの生き様が心に響く一冊でした。